東神金商事件(大阪地判令2・10・29) 退職金廃止して精算したのに支払い求められた 就業規則変更の同意認めず
元従業員が退職金の支払いを求めた事案。会社は十数年前に制度を廃止して、積み立てていた保険の返戻金を支払っていた。大阪地裁は、返戻金を異議を述べず受領しても就業規則の不利益変更に同意したとはいえないと判断。廃止の理由は、自社ビル購入で負債が膨らんだためで、同意する客観的合理的理由は認められず、経営状況等の説明もないなど改定後の内容は合理性を欠くとした。
経営状況説明なし 内容は合理性欠く
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
本件は、土木建築資材の販売等を目的とするYの従業員であったXら2人がYに対し、各労働契約に基づき、退職金の支払い等を求める事案である。
Yは、平成4年頃、本件旧就業規則を制定し、同年以降、退職金規定に基づいて、退職金を支払っていた。なお、Yは、適格年金に加入していた。
Yは、平成13年頃、Yの負債が膨らんだこと等を理由に、退職金制度の廃止を決意したが、負債の主たる要因は、同年頃、自社ビルを購入するため、約3億円の借入れを行ったことである。Yは、Xらを含む従業員に対し、平成13年頃、退職金制度を廃止すること、退職金の支払いのための積立型保険を解約し、解約返戻金を分配することを説明した。Xらを含む従業員は、この説明に対し、とくに異議を述べず、適格年金の解約返戻金を受領した。Yは、Xらを含む従業員との間で、退職金制度の廃止に同意する旨の書面を取り交わしていない。Yにおいて、平成13年以降も退職金が支払われている従業員が存する。
本件旧就業規則は、平成26年10月頃まで変更されていなかった。Y代表者は、平成26年頃、新しい就業規則(退職金を支給しないとする内容)を作成し、従業員全員が出席した会議において、新しい就業規則に関する説明を行い、過半数代表者の意見書(とくになし)を得て、労働基準監督署長に対し届け出た。Yは、平成29年11月頃、本件新退職金規程を定めた(自己都合退職の場合は、Yが個別に金額を決定するというもの)。なお、本件旧就業規則によれば、X1の退職金は353万8000円等となる。
その後、Xらが、平成30年に退職し、本訴を提起した。本判決は、Xらの請求を概ね認容した。
判決のポイント
将来の退職金を失わせるという不利益の大きさに鑑み、…
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