REI元従業員事件(東京地判令4・5・13) 競業避止契約に違反したとSEに損害賠償請求 転職先の制限広く合意無効
人材の派遣・紹介会社が、システムエンジニアに対し競業避止契約に違反したとして賠償を求めた。東京地裁は、客先の指示でシステム開発等に従事するため会社は独自のノウハウを有さず、提供を受けたともいえないなどとして、同義務を定めた目的や利益は不明と判断。転職先を制限する範囲は顧客の取引先を含むなど広範で、代償措置もないことから合意を無効とした。
目的や利益も不明 代償措置なかった
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
X社は、主にシステムエンジニアを企業に派遣・紹介する株式会社である。令和元年5月、X社とYは、月額給与30万円(後に35万円に増額)等を内容とする労働契約を締結した。
同年11月から令和2年9月30日まで、Yは、A社を就業の場所としてシステムエンジニアとして従事した。同年8月頃、YはX社に対して同年9月末日をもって退職する旨を伝え、退職後の同年10月9日、同日付「秘密保持契約書」(以下「本件合意書」)に署名押印した。
本件合意書には、第4条として、退職後1年間にわたり、「(1)貴社との取引に関係ある事業者に就職すること、(2)貴社のお客先に関係ある事業者に就職すること、(3)貴社と取引及び競合関係にある事業者に就職すること、(4)貴社と取引及び競合関係にある事業を自ら開業または設立すること」を行わないことを約束すること、第5条として、本件合意書に違反した場合には会社が被った一切の損害ならびに第三者が被った損害に対する賠償金等について、賠償すること、第6条として、退職後1年間にわたり、会社と取引及び競合関係にある事業者、会社の客先に関係ある事業者に就職する場合に、3か月分給与(最後の3か月の平均額を月額の基準とする)の賠償金を賠償すること、といった記載があった。
YはB社と業務委託契約を締結し、X社を退職後、令和2年10月1日以降、A社に通い、A社、その子会社もしくは関連会社であり、X社と取引関係のある事業者において勤務した。
X社は、Yに対して、本件合意書に定める競業避止義務に違反し、あるいは自由競争の範囲を逸脱した違法な競業を行ったと主張して、約定損害金等の支払いを求めて提訴した(YもX社に対して未払賃金を請求しているが、本稿では言及を省略する)。
判決のポイント
ア Yは、…
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