マニュライフ生命保険事件(東京地判令6・10・22) 保険営業員が業法違反、懲戒解雇で退職金なし 勤続の功あり3割は支給を
保険業法違反の名義借契約を理由に、懲戒解雇された営業職員が退職金の支払いを求めた。東京地裁は、懲戒解雇を有効と認めたが、退職金を不支給とするには勤続の功を抹消、減殺する著しい背信行為を要するとした。名義借の悪質性や会社の社会的信用を棄損したことを踏まえても、名義借は1件のみで過去に懲戒歴もなかったことから、退職金の3割の請求権を認めた。
違法行為1件のみ 悪質で信用棄損も
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
平成28年2月頃、甲は、保険営業の成績が悪かったことから、小中学校時代の同級生に依頼し、名義借契約(契約者に保険契約の加入意思、保険料支払意思がないにもかかわらず、契約者から名義使用の了承を得る保険契約)を締結した。
また、令和4年6月および7月に、甲は、本来必要であった被保険者との面談および同人の署名を得ないまま、契約申込者の代筆等によって、契約申込手続きを完了させる行為を2度行った。
その後、契約申込者からの申告により、会社は、甲の契約手続きにおいて、名義借契約または無面接・代筆の問題がある可能性を認識したことから、甲に事情聴取したところ、甲はこれらの問題を認め、自認書を提出した。しかしながら、甲は、自認書は監禁状態に置かれて書かされたものであり、真意と異なるとして、名義借契約であることを否定する弁明書を会社に提出した。
会社は、甲の弁明書を受領したうえで、同4年11月7日、甲を懲戒解雇し、退職金999万7000円全部を不支給とした。甲はこれを不服として会社に対して不支給とされた退職金等の支払いを求めて提訴した。
判決のポイント
(1)懲戒解雇の有効性
名義借契約は、…「保険募集に関し著しく不適当な行為」…
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