【元漫才師の芸能界交友録】第29回 オール阪神・巨人 紫綬褒章祝い締め舞台へ/角田 龍平

2020.02.13 【労働新聞】
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いつまでも客を魅了し続ける
イラスト・むつきつとむ

 職業柄、企業でハラスメント研修の講師を務めることがある。女性警視が同僚の男性警視から「ちゃん」付けで呼ばれるなどのセクハラを受け、公務災害に認定されたケースを紹介すると、いつも聴講者から不安の声が上がる。もちろん、職場における「ちゃん」付けが必ずしもハラスメントに当たるわけではない。むしろ、職場内の人間関係を円滑にする「ちゃん」付けだってある。

 「阪神ちゃん、例のモノマネやってんか」。5年前のお盆に、阿波踊りの営業で徳島を訪れたオール巨人師匠は、楽屋として案内されたホテルの一室で、阪神師匠にモノマネをせがんだ。

 前年に阿波踊りを初体験してカタルシスを感じた私は、大阪から徳島へ向かう巨人師匠の車に便乗し、その営業に同伴していた。

 モノマネをせがまれた途端、阪神師匠はしゃがれた声の老人に豹変し、「えぇ…阿波踊りにはぁ…男踊りとぉ…女踊りがぁ…ございましてぇ」と一席ぶった。それをみていた巨人師匠は笑いが止まらなくなり、「阪神ちゃん、もうやめて」と自らリクエストしたモノマネを強制終了させた。阪神師匠がどこの誰を真似しているのか、皆目見当がつかなかったが、相当似ていることだけは確かだった。

 しばらくすると、巨人師匠と阪神師匠は、ゲストとして参加する日本フルハップ連の決起集会が行われる宴会場へと移動した。集会が始まると、阿波踊りを指導する地元の有名連の岡田連長という長老が挨拶に立った。

 岡田連長は、しゃがれた声を絞り出すように話し始めた。「えぇ…阿波踊りにはぁ…男踊りとぉ…女踊りがぁ…ございましてぇ」。どうやら、阪神師匠が楽屋で披露していたのは、阿波踊りの営業で毎年顔を合わせる岡田連長のモノマネだったらしい。

 岡田連長の後を受け、コンビで挨拶に立った阪神師匠が開口一番「えぇ…阿波踊りにはぁ…男踊りとぉ…女踊りがぁ…ございましてぇ」と完コピすると、連長を知る参加者がどっと笑った。私の傍にいたお婆さんは笑い過ぎて過呼吸を起こしそうになっていた。ようやく笑いが治まったお婆さんが、阪神師匠に向かって一言、「小憎らしい!」と叫んだのを見逃さなかった。笑いの最上級はもはや「小憎らしい」のだ。

 暮れも押し詰まった昨年の12月29日。大阪・梅田の中華料理店で、阪神・巨人の弟子が集まり、両師匠の紫綬褒章受章を祝う会をした。宴席の最中、「元旦に雪降ってくれへんかな」と漏らした巨人師匠にその理由を尋ねると、意外な答えが返ってきた。「M-1の審査員してるから、全国ネットの生放送で漫才することにプレッシャー感じるんや。新幹線止まらへんやろか」と元旦に出演するフジテレビ『爆笑ヒットパレード』への不安をのぞかせたのだ。

 令和2年元旦。3日前に私たちが進呈したお揃いの紫のネクタイを締めて『爆笑ヒットパレード』に登場した巨人師匠と阪神師匠は、円熟味を増したしゃべくり漫才で視聴者を魅了した。いつぞやのお婆さんもテレビの前で「小憎らしい」と唸っていたに違いない。

この連載を見る:
令和2年2月17日第3245号7面 掲載

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