【国土を脅かす地震と噴火】1 自然と人文からの探求 過去の地変が復元可能に/伊藤 和明

2018.01.15 【労働新聞】
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先人の残した記録から迫る
イラスト 吉川 泰生

 日本の風土は美しい。四季折々に変化する自然のたたずまいは、古来、日本人の心をとらえ、豊かな情感を育んできた。

 しかし、このような風景の美しさは、もとをただせば、起伏に富んだ日本列島の地形そのものに支えられているといってもいい。それはたとえば、雪に輝く山々の連なりであり、均整のとれた火山の姿態や火山高原の碧い広がりであり、あるいは山間を縫う渓谷の深みや、複雑に入り組んだ海岸線の多彩さでもある。

 だが見方を変えれば、この多様な自然景観こそ、日本列島が絶えず変動の場にさらされてきたことの帰結であって、いわば太古からの列島そのものの生い立ちに起因するところが大きいのである。

 日本列島の下に沈みこんでいる海洋プレートによって、太平洋の側から常に押され続けている列島では、長い間地殻の中に蓄積されてきた歪みが、一挙に解放されることによって地震が発生する。あるいは、マグマだまりから絞り出されるマグマによって、火山の噴火が発生する。

 大地震のたびに生ずる地盤の隆起や沈降は、地質時代からたびたび繰り返されてきたために、海陸の分布や山地の地形などが少しずつ変化してきた。このような変動が、何億年もの昔から複雑に作用し合い、積み重なっては現在の日本列島が形成されてきたのである。

 日本人にとって、こよない天の贈り物である風景の美しさは、まさにこれら激しい地殻変動の累積がもたらしたものだったのである。いい換えれば、それは日本列島の生成そのものに内在する現象なのであって、この国土に住み続ける限り、私たちは、いつどこで大地震や火山の大噴火に遭遇するかわからないという宿命を、常に背負い続けているということができよう。

 日本列島の歩んできた長大な地史に比べれば、そこに人間が住みついてからの時間は、きわめて短い。まして日本人が文字を獲得し、文字によって体験を表現できるようになってからの時間は、ほんの一瞬にすぎない。

 しかしその一瞬の間に、人びとは様ざまな自然災害を体験しては、その体験を詳しく、そしてありのままに書き記し後世に伝えてきた。

 一方では、過去の大地震や火山噴火による災害の現場には、地変の証跡が大地そのものに刻みつけられている例も少なくない。

 したがって、自然と人文の両面から、過去の地変とそれによる災害の実態を読み取り、復元することが可能になってきたのである。そのようにして得られた知見には、現代への教訓が数多く含まれていて、防災上の重要な示唆を与えるものとなっている。それはいわば、災害面での“温故知新”と位置付けることができよう。

NPO法人防災情報機構 会長
元NHK解説委員
伊藤 和明 氏

筆者:NPO法人防災情報機構 会長 元NHK解説委員 伊藤 和明
いとう・かずあき
1953年東京大学理学部地学科卒業。59年NHK入局、科学番組担当ディレクター。78~2000年NHK解説委員。文教大学国際学部教授。現在、NPO法人防災情報機構会長

この連載を見る:
平成30年1月15日第3144号7面 掲載

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