【元漫才師の芸能界交友録】第44回 岡口基一① 裁判官に必要な「自由」/角田 龍平

2020.06.04 【労働新聞】
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自撮りした姿が代名詞に…
イラスト・むつきつとむ

 往年の人気番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)に「早朝バズーカ」という名物企画があった。まだ寝床の中にいるターゲットへ向けて早朝からバズーカをぶっ放す高田純次さんをみて、笑い転げたものだ。番組の演出をしていたテリー伊藤さんは、「早朝〇〇〇」という性風俗店の看板を街中で見掛けて、「早朝バズーカ」を着想したという。小鳥のさえずりが聞こえる爽やかな早朝と、猥雑な性風俗の結合に強烈なインパクトを受けたそうだ。矛盾する言葉を掛け合わせる撞着語法というレトリックである。

 撞着語法の例として、Mr.Childrenやブラックマヨネーズの名前がよく挙げられる。しかし、キング・オブ・撞着語法は、“白ブリーフ判事”をおいて他にない。“白ブリーフ判事”こと岡口基一さんは、1966年に大分県の国東半島にある豊後高田市という田舎町で牧師の家に生まれた。東京大学卒業後の91年に司法試験に合格し、94年に浦和地方裁判所判事補となり、裁判官としてのキャリアをスタートさせた。

 東京高等裁判所判事時代の2016年6月、岡口さんに転機が訪れる。ツイッターへ投稿した自身の半裸画像が東京高裁から問題視され、厳重注意処分を受けたのだ。問題の半裸画像とは、「行きつけの飲み屋で、面白半分で上半身裸になり胸の回りを縄で二周縛ってもらった画像」(岩波書店刊『最高裁に告ぐ』)だった。厳重注意処分がマスコミに大きく報じられると、岡口さんのツイッターはフォロワーが急増。ガラケーで自撮りした白ブリーフ一丁のヘッダー画像が評判になり、“白ブリーフ判事”と呼ばれるようになった。

 同年7月25日に発売された週刊現代の〈16年上半期「お騒がせ事件」の主役たちはいま〉という企画では、SMAPの独立騒動で渦中の人となった飯島マネージャーらと並んで主役の一人として特集された。

 同誌によると、ブリーフにこだわる理由を聞かれた岡口さんは「やはりあの純白、白一色という潔さですね。筋肉とのコントラストで、あれほど凛々しく、日本男児にふさわしい下着は他にはないと思います。白のブリーフはすごく気に入っていて、小学生のとき、初めてはいてから白いブリーフ一筋、これからも履き続けますよ」と屈託なく答えていたが、深読みする事情通もいた。〈脱いで話題になれば、裁判官にとっては出世に響く危険行為だ。それでも、岡口裁判官は脱ぐ。なぜなのか。一緒にプロレス観戦するなど、親交のある角田龍平弁護士が明かす。「私独自の見方ですが『裁判官はもっと自由にならないといけない』という、岡口さんから他の裁判官に対するメッセージだと思います」〉。

 司法の役割は、多数決原理が支配する政治部門でこぼれ落ちた少数者の自由を守ることにある。自由でない者が、他人の自由など守れるだろうか。憲法76条3項は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と定めている。裁判官を縛るのは、憲法と法律と縄だけで良い。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

この連載を見る:
令和2年6月8日第3260号7面 掲載

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