【元漫才師の芸能界交友録】第23回 杉作J太郎⑤ ラジオに“首都なし”/角田 龍平

2019.12.19 【労働新聞】
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松山と京都でラジオに奮闘

 師走の夜、『角田龍平の蛤御門のヘン』の収録終わりに、KBS京都から烏丸通を隔てて斜向かいにある蛤御門の前でタクシーを止めた。「『七条東洞院下る』までお願いします」。京都では北へ行くことを「上る」、南へ行くことを「下る」という。

 車中でゲストに来てくれた小説家の塩田武士さんと四方山話をしていると、60歳代と思しきタクシードライバーがおもむろに口を開いた。「『クーロン』は『七条東洞院上る』じゃないですか?」。向かっている店の名は告げていなかった。怪訝な顔をすると、タクシードライバーは「いつも聴いています」と笑みをもらした。そういえば、行きつけの中華料理店でゲストと一献傾ける収録後のルーティンを番組でよく話していた。

 radikoというアプリをダウンロードして月額350円支払えば、日本全国のラジオを聴きたい時に聴ける時代になった。『蛤御門のヘン』にも全国のラジオマニアからメールが寄せられる。番組はマニア層に支えられているが、仕事をしながらカーラジオの周波数を1143キロヘルツに偶然合わせたタクシードライバーのようなリスナーも大切にしたい。

 「『どこの誰だか分からん人がしゃべっているな』と思って聴いていたら、『どこの誰だか分からんけれど、おもしろい』っていうのがラジオの理想」。番組が始まり半年が過ぎた頃、ゲストにやって来た杉作さんにそういうと、こんな話をしてくれた。

 「それはラジオだからできるんですよ。昔、寺山修司さんがよくいっていた。『たとえば杉村春子先生がしゃべるのと、そこらのパチンコ屋さんの用心棒が自分の人生をしゃべるのと、どっちが面白いのか? っていったら、パチンコ屋の用心棒の方が僕は面白いと思うね』みたいなことを。やっぱりね、ラジオはそれがあるんですよね」。

 2017年秋。『蛤御門のヘン』と時を同じくして南海放送で『杉作J太郎のどっきりナイトナイトナイト』(現『どっきりナイト7』)が始まった。杉作さんは、リスナーの多くがみたことのない昔の映画について、元ネタが分からないので似ているか判別できないモノマネを交えて止め処なく話す。大抵は聴いたことのない曲をかけるが、同じ曲を繰り返し流すこともある。ADの女子大生を出演させて、話は噛み合わなくても心は通わせる。ラジオの定石を踏み外してばかりいるのに、これがなぜだか異常に面白い。

 杉作さんにその制作意図を尋ねた。「想定内のことはもうやりたくない。テレビはなんでつまらなくなったかというと、『15秒後…』とかいうじゃないですか。そうすると、それが分かっていて15秒付き合うわけですよ。こんなつまらない15秒は世界にないわけ」。

 自分がよく知らない人や国、思想や文化を排斥する今の日本の風潮もつまらないと杉作さんはいう。

 「ラジオに首都はない」と宣言する杉作さんが故郷の松山から毎夜放送しているラジオを聴けば、分かるはずだ。自分の知らない話に耳を傾けることで広がる世界は素晴らしい。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

この連載を見る:
令和元年12月23日第3238号7面 掲載

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