【元漫才師の芸能界交友録】第10回 北野誠・竹内義和② 10年越しの最終回を実現/角田 龍平

2019.09.12 【労働新聞】
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今夏、約束が現実のものに
イラスト・むつきつとむ

 月曜の朝はいつも寝不足だった。少年は日曜の夜になると、AMラジオの周波数を1008khzに合わせた。ラジオから流れるイギー・ポップの「リアル・ワイルド・チャイルド」に乗せて、軽快に喋り始める北野誠と竹内義和。芸人と作家の最強タッグが織り成す言葉のプロレスに耽溺しているうちに、夜は更けていく。

 大阪のABCラジオで放送されていた「誠のサイキック青年団」はカルト的人気を誇った伝説のラジオだ。番組イベント「真夏のサイキックミーティング」のチケットは発売と同時に完売。数千人のサイキッカーが会場である大阪厚生年金会館を埋め尽くした。

 2009年の春、サイキッカーは予期せぬ悲劇に見舞われる。番組やイベントでの発言が問題になり、21年続いた「サイキック」が3月8日の放送を最後に突然打ち切られたのだ。翌週の放送は、アナウンサーが「諸般の事情で前回3月8日放送をもって最終回」と無機質な声で告げるのみ。最終回なきバッドエンドにサイキッカーは枕を濡らした。

 誠さんは約1年の謹慎を経てラジオに復帰。名古屋のCBCラジオでお昼の帯番組「北野誠のズバリ」がスタートした。「サイキック」終了の報を聴き、居ても立ってもいられなくなり書いた手紙をきっかけに、誠さんとの交流が始まっていた私も「ズバリ」に出演するようになる。生放送中に寄せられる大量のメールを即座に選別し、ネタに応じて緩急自在のトークを繰り広げる誠さんの神業にいつも舌を巻いた。CBCラジオの夏祭りでみた光景も忘れられない。夏祭りには千人を超えるリスナーが詰め掛け、誠さんに声援を送っていた。ステージでは誠さんが泉谷しげるの「春夏秋冬」を歌っている。謹慎を強いられた誠さんが過ごした春夏秋冬に思いを馳せ、目頭が熱くなった。新天地名古屋でもリスナーから熱烈な支持を受ける誠さんは「ラジオの神様に愛された男」だと確信した。

 一方、竹内先生はなかなかラジオに復帰できないでいた。しかし、竹内先生も「ラジオの神様に愛されなければならない男」だ。17年秋からKBS京都ラジオで「角田龍平の蛤御門のヘン」が始まると、事あるごとに竹内先生に出演をオファーした。錆びることのない話術で語られる哲学的に下世話な噺に腹を抱えながらも、内心こう思った。「誠さんのツッコミがあればもっと面白いのに」。09年3月8日の放送を最後に、誠さんと竹内先生が共演することはなくなっていた。

 「サイキック」の放送終了から、ちょうど10年が過ぎた今年の3月。「蛤御門のヘン」に出演した誠さんは、竹内先生といつの日か共演することを約束してくれた。そして、春が過ぎ、夏が来て、10年越しの最終回が現実のものとなる。

 その夜の「蛤御門のヘン」のサブタイトルは、「真夏のサイキックミーティング」。オープニングテーマの「リアル・ワイルド・チャイルド」に乗せて、竹内先生が誠さんに話しかける。「あのね、まこっちゃん…」。日曜の夜を繋ぎ合わせて生きていた少年が、ふたりの傍で笑っていた。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

この連載を見る:
令和元年9月16日第3225号7面 掲載

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