【元漫才師の芸能界交友録】第26回 スーパー・ササダンゴ・マシン③ “遵法精神”をリングにも/角田 龍平

2020.01.23 【労働新聞】
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「煽りパワポ」で一石投じる
イラスト・むつきつとむ

 1990年2月10日、東京ドーム。テレビカメラが映し出したのは、試合前の緊迫した控え室の様子だった。坂口征二を従え、親子ほど年の離れた橋本真也と蝶野正洋とのタッグマッチに臨むアントニオ猪木は、憮然とした表情でアナウンサーのインタビューを受けていた。

 「もし負けるということがあると、これは勝負の時の運という言葉で済まないことになりますが?」。野暮な質問を浴びせた途端、猪木の強烈なビンタがアナウンサーの頬を捉えた。「出る前に負けること考える馬鹿いるかよ! 出てけ! コラー!」。

 2019年6月7日、新潟市万代シティ。私は、新潟総合テレビ『八千代ライブ』の中継で、『東京ラーメンショーIN新潟』を訪れていた。司会のスーパー・ササダンゴ・マシンと共に、出店している東京の有名店の味をスタジオとお茶の間に伝えるのが私の役割のはずだった。ところが、私たちは本来の役割を忘れ、壮絶な仲間割れを演じてしまう。

 「角田さん、さっきからスープだけ飲んで、全く麺を食べてないじゃないですか!」。「糖質制限ダイエットをしているので、麺はちょっと…」。悪びれずに答えた私の頬に、ササダンゴ・マシンのビンタが飛ぶ。「ラーメンの食レポで麺を食べない馬鹿いるかよ!」。怒り心頭のササダンゴ・マシンに、30年前の猪木の姿が重なった。

 しかし、両者の間には、決定的な違いがあった。大きな金型工場の専務取締役の顔も持つ常識人のササダンゴ・マシンは、ビンタを見舞うことについてインフォームド・コンセントを行っていた。そもそも、糖質制限ダイエットを理由に麺を口にしないという演出を考えたのも彼だった。一方、「一寸先はハプニング」というフレーズを好み、時にはプロレスの暗黙のルールを破るのも厭わなかった猪木のことだ。アナウンサーの事前の承諾はなかったに違いない。

 ちなみに、プロレス技が暴行罪や傷害罪の条文に該当するのに犯罪にならないのは、スポーツがルールの範囲内で行われている限り、正当業務行為として違法性がなくなるからだ。とすれば、リングを離れた控え室で、事前の承諾なくアナウンサーの頬を張った猪木の行為に違法性がなくなることはない。

 もっとも、プロレスにおいて事件性が疑われるのは、猪木の当該行為だけではない。かつて、長州力は敵対していた団体の選手に向けて、「墓にクソぶっかけてやる」と息巻いた。すき焼き鍋に放尿する行為に器物損壊罪の成立を認めた明治時代の判例に照らせば、本当に「墓にクソぶっかけ」た場合にも同罪が成立する公算が高い。

 コンプライアンスが声高に叫ばれる昨今、プロレスのリング上とて、治外法権ではない。従来は「ぶっ潰す」など脅迫的言辞が飛び交ったマイクアピールもアップデートする必要がある。そんな問題意識を持ったササダンゴ・マシンは、試合前にパワーポイントを使い、理路整然と対戦相手の攻略法をプレゼンテーションして、観客の興味を惹くようになる。「煽りパワポ」の発明である。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

この連載を見る:
令和2年1月27日第3242号7面 掲載

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