【Opinion】労働安全衛生行政 専門性継承可能な人事制度の確立を/森﨑 巌

2019.08.27 【安全スタッフ】
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 「総合性の向上」「効率的な運営」などを掲げた新たな方針の下、安全衛生分野の諸業務を担ってきた専門官「技官」の採用停止から昨年でちょうど10年が過ぎた。技官が担ってきた災害の調査・分析、各種計画届の審査、特定機械の検査などの業務は労働基準監督官が担うようになった一方、専門性が極めて高いそれら業務の実務的継承が危ういという見方がある。安全衛生行政の第一線を担っている同省の労働組合が発している、そんな危惧の声を本欄ではお届けする。

はじめに

 労働基準監督署や労働局に勤務する職員の人事制度(採用・育成システム)は、2008年以降、大きく変更されています。この動きが労働基準行政、とりわけ安全衛生行政にどのように影響を及ぼすのか、また事業者と労働者の双方から信頼される安全衛生行政を実現するため、従事する職員の人事制度はどうあるべきかを考えます。

1 労働基準行政の三官制度

 労働基準行政に従事する職員は従来、①労働基準監督官(労働基準監督官採用試験合格者から採用。以下「監督官」)、②厚生労働技官(全府省統一の国家公務員試験合格者から採用。以下「技官」)、③厚生労働事務官(②と同じ。以下「事務官」)として採用され、それぞれ、①監督業務、②安全衛生業務、③労災補償業務および労働保険適用・徴収業務等を「専管業務」(主として担当する業務)とすることで長期にわたる各業務への従事を可能とし、その専門性を高めてきたのです。職員数の大まかな比率は、①3割、②1割、③6割程度となっていました。

 もとより、各職員にとって幅広い業務の経験は重要です。実際、これまでも労働基準監督官が安全衛生業務に就くことはありましたが、その場合、経験の浅い監督官に業務を任せきりにすることはなく、同じ部署の経験豊富な技官が手厚くサポートしていました。

2 新人事制度の導入

 2008年10月に「新人事制度」は導入されました。冒頭で紹介した人事制度は変更され、労働基準監督官が監督業務、安全衛生業務、労災補償業務などのすべてを担うこととなり、その結果、技官と事務官の採用が停止されたのです。

 新たに採用された労働基準監督官の人事は、任官当初の数年間は労働基準監督署の監督課(または方面)に配属されて監督業務に従事するものの、その後は監督業務のほか、随時、労基署の安全衛生課や労災課に異動し、安全衛生業務や労災補償業務などにも従事することになったのです。その狙いは、労働基準行政の総合性を高め、より効率的な行政運営を図ろうとするもので、それ自体が重要であることは言うまでもありません。

 これに対して2008年以前に採用された技官の人事は大きく異なっていました。任官直後から、労基署の安全衛生課などに配属され、災害調査・分析、計画届や特定機械(ボイラー、第一種圧力容器、クレーン等)などの審査や検査、個別事業場への指導などの業務に従事することで多様な経験を積み重ね、あわせて、労働大学校(労働政策研究・研修機構)で実施される系統的な専門研修を履修することで高度な専門性を身につけてきました。こうした技官の採用・育成のプロセスはまさに、「労働安全衛生のスペシャリスト」を養成するプロセスであったと言えるでしょう。

3 安全衛生行政の重要性の高まり

 安全衛生行政が向き合うべき課題は広範化、複雑化、高度化しています。

 労働災害の発生状況を見ると、…

執筆:全労働省労働組合副委員長 森﨑 巌

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この連載を見る:
2019年9月1日第2337号 掲載

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