【国土を脅かす地震と噴火】28 飛越地震と鳶崩れ㊤ 火花が飛び散る岩なだれ/伊藤 和明

2018.08.30 【労働新聞】
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凹地に山が2つ分
イラスト 吉川 泰生

 1858年4月9日(安政5年2月26日)の未明、北アルプス立山連峰の西、現在の富山・岐阜両県の県境付近で大地震が発生した。飛騨と越中での被害が大きかったため「飛越地震」と呼ばれている。

 この地震は、第一級の活断層である跡津川断層の活動により生じた。規模は、従来M7.0~7.1(理科年表など)としていたが、近年、被害分布などを基に再検討を進めた結果、M7.3~7.6だったと推定している。

 強烈な揺れに見舞われた城下町の富山では、多数の家屋が倒壊し、約70人の死者が出た。震源から遠く離れた金沢や大聖寺でも、多くの家屋が全半壊した。

 とりわけ大災害となったのは飛騨地方で、神通川の上流に当たる宮川や高原川流域の村々、白川郷などの被害が甚大で、家屋の倒壊率が100%近くに達した集落もあった。飛騨だけで全壊家屋323戸、死者209人を数えたという。

 飛越地震は、山岳地帯を走る跡津川断層の活動により発生したため、山崩れが多発した。この結果、崩壊した土砂が川を堰き止めて天然ダムを形成したり、主要な道路が寸断されたりするなど、厳しい山地災害の様相を呈した。

 飛騨の村々でも、各所で山崩れによって多くの家屋が埋まり死者も出た。宮川や高原川、小鳥川などでは、川が堰き止められて幾つもの天然ダムを生じ、のちに決壊して下流域に洪水をもたらしたものもある。

 これら山崩れのなかでも、ひときわ規模が大きく、飛越地震の名を後世に留めることになったのは、立山連峰の大鳶山と小鳶山の大崩壊であった。ほぼ南北に伸びる尾根の西斜面、現在は立山カルデラと呼ばれている凹地形の底に向かって、山体の一部が崩れ落ちたのであり、通称“鳶崩れ”と呼ばれている。

 立山カルデラは、今は観光コースになっている「立山黒部アルペンルート」が走る弥陀ヶ原の南に隣接しており、東西約6.5キロ、南北約4.5キロの巨大な凹地形である。一般的な火山のカルデラではなく、長い間の侵食作用によって形成された凹地形、いわば“侵食カルデラ”である。カルデラの斜面から流れ出す大小の川の水は、集まって湯川となり、西進する湯川は、やがて南からくる真川と合流して常願寺川となり、富山平野を潤している。

 大鳶・小鳶の大崩壊により、カルデラ内に大量の岩なだれが発生した。岩なだれは、中腹にあった立山温泉を呑みこみ、湯川から常願寺川を流下した。岩なだれが高速で流下したとき、無数の岩石がぶつかりあって火花を発し、その光で川筋が明るく見えるほどだったという。

 湯川の上流部では、水流が堰き止められ、多数の天然ダムを生じた。また、湯川の谷を流下した大量の土砂は、眞川との合流点に達したうえ、眞川の谷を逆流して堆積し、長さ8キロ、深さ100メートルを超える天然ダムが形成された。

 このように、山地激震によって生じた大規模な地変は、やがて次なる大災害を誘発することになったのである。

筆者:NPO法人防災情報機構 会長 元NHK解説委員 伊藤 和明

〈記事一覧〉
【国土を脅かす地震と噴火】28 飛越地震と鳶崩れ㊤ 火花が飛び散る岩なだれ/伊藤 和明
【国土を脅かす地震と噴火】29 飛越地震と鳶崩れ㊦ 震災により暴れ川へ急変/伊藤 和明

この連載を見る:
平成30年9月3日第3175号7面 掲載

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