【元漫才師の交友録】第47回 貴乃花光司 土俵外でもガチ相撲/角田 龍平

2020.06.25 【労働新聞】
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柔和な表情が一転、鬼神に…
イラスト・むつきつとむ

 昨年の憲法記念日。憲法21条1項が表現の自由を保障しているのを良いことに、私は『八千代ライブ』(新潟総合テレビ)で好き勝手にプレゼンしていた。新潟を流れる信濃川の水の如く豊かな情報をお届けするコーナー「情報信濃川」のテーマは、「令和の宿題 平成の忘れもの」。3日前に終止符を打ったばかりの平成という時代をクイズ形式で振り返った。

 たとえば、「次のうち、平成の未解決事件でないのはどれ? ①グリコ森永事件 ②若人あきら失踪事件 ③長嶋一茂邸落書き事件 ④志村けんインスタ乗っ取り事件」。②ないし④は平成の未解決事件だが、①だけ昭和の未解決事件という引っ掛け問題だ。各事件をおさらいしたものの、公開生放送に詰め掛けた観覧客、とりわけちびっこの反応は薄かった。

 記憶に新しい話題なら観覧客の食いつきも良かろうと新元号に纏わる問題も出題した。「次のうち、新元号の候補に挙がっていなかったのはどれ? ①英弘(えいこう) ②久化(きゅうか) ③広至(こうし) ④万和(ばんな) ⑤万保(ばんぽう) ⑥虎上(まさる)」。「それや! ずっと聞いてたけど、最後や!」。なすなかにしの那須さんの歯切れ良いツッコミがスタジオに響く。好角家で漢字王として知られるやくみつるさんさえ読めない難読漢字に改名した花田虎上さんを題材にしたのは、思春期と“若貴フィーバー”が重なる私にとって、いまだ実現しない若貴兄弟の和解は「平成の忘れもの」だったからだ。

 遡ること1カ月前。新潟総合テレビのスタジオは、異様な緊張感に包まれていた。その日の『八千代ライブ』のゲストは、貴乃花さんだった。「男の中の男」などという男女の性差を前提とする言葉は、もはや口にすべきではない。しかし、少年時代に教室の後ろで、あるいは校庭の砂場で相撲を取ったことのある全ての男は、大相撲で頂点を極めた男を前にすると畏怖せざるを得ないのが現実だ。もちろん、貴乃花さんが居丈高な態度を取ることはなかった。むしろ、物腰穏やかに「貴さんと呼んでください」といわれ、困惑するほどだった。ただ、貴さんの目が勝負師のそれに戻った瞬間があった。

 「精巣捻転って何ですか?」。私にそう尋ねた貴さんは、一瞬だけだが、平成13年夏場所の優勝決定戦で右膝半月板を負傷しながら武蔵丸を上手投げで破った時の鬼神のような表情をしていた。その日の「情報信濃川」では、終わりゆく平成を彩った大横綱の偉業を3択クイズ方式でプレゼンしたが、次のサービス問題が逆鱗に触れたのだろうか。「貴さんが大関、横綱昇進時の口上で使っていない四字熟語は? ①不撓不屈 ②不惜身命 ③精巣捻転」。

 貴さんに気圧され、恐る恐る「思春期の青少年が多く発症する精巣の捻じれる病気です」と説明すると、貴さんは私の目を真っ直ぐに見据えて「③」とだけ回答した。何事にもガチンコで挑む貴さんに、小泉元首相ならずとも「感動した!」と叫びたくなると同時に、私はスタジオの床に上手投げで叩きつけられたような気がした。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

この連載を見る:
令和2年7月6日第3263号7面 掲載

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