【元漫才師の芸能界交友録】第4回 オール巨人② 芸人は清く正しく面白く/角田 龍平

2019.07.18 【労働新聞】
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理不尽な振舞いは許さない
イラスト・むつきつとむ

 「お笑い芸人は、清く正しく面白く、肝に命じて欲しい」。闇営業問題で揺れる吉本興業の後輩に向けて、オール巨人はツイッターでそう呟いた。「清く正しく面白く」。巨人師匠の45年の芸歴はこの言葉に集約される。

 遡ること3カ月前。京都御所を前に臨む放送局の駐車場で1台の車を待つ私の胸に去来するのは緊張感と懐かしさだった。24年前に巨人師匠の付き人をしていた頃、大阪の劇場やテレビ局で同じように師匠の車が来るのを待っていた。18歳だった私は42歳になり、あの頃の巨人師匠と同じ年齢になった。巨人師匠は32歳で一番弟子を取り「師匠」と呼ばれるようになり、42歳で最早「大御所」としての風格を漂わせていた。一方、私は32歳でようやく弁護士になり、42歳の今も一介の若手弁護士に過ぎない。

 遠くから高級車のエンジンの音が聞こえてくると、42歳になっても緊張感が懐かしさを上回る。巨人師匠の車に駆け寄り、法廷で「異議あり!」と叫ぶ時より大きな声で「おはようございます!」と挨拶すると、確保しておいた駐車スペースに誘導し、車から降りてきた師匠のバッグを受け取る。「朝早くからありがとうございます」と恐縮しつつ礼を述べると、「こちらこそ呼んでくれてありがとう!」と背筋を伸ばして答える巨人師匠。この日、巨人師匠はKBS京都ラジオ「角田龍平の蛤御門のヘン」にゲストとして来てくれたのだ。先輩だけでなく後輩にも礼節を尽くすのが巨人師匠の真骨頂である。

 ただし、先輩であろうと、理不尽な振舞いは許さない。巨人師匠が番組で披露した、あの横山やすしさんに纏わるエピソードが印象深い。その昔、やすしさんが海外から外車を購入した際、現地の邦人に費用を立て替えてもらいながら、なかなか返済せずにいた――という話を巨人師匠が生放送のテレビですると、それをみていたやすしさんから番組宛てに電話があった。スタッフが面白がってスタジオに電話をつなぐと「こらっ!巨人!」とやすしさん。「すみません」と大先輩の顔を立て巨人師匠が謝ると、「俺、ちゃんと金払っとるんじゃい!こらっ!みてもないのに偉そうに抜かしやがってアホんだら!カス!謝って済むんやったら警察いらんぞ!」と往年のやすし節で捲し立てた。

 生放送では矛を収めた巨人師匠だったが、後日やすしさんに会った時に釘を刺した。「師匠、ほんまは払ってはりませんやん。今度あんなことあったら、師匠に『メガネ外せ!』いいますからね」。それからというもの、「おらっ!巨人!」と呼ばれていたやすしさんから「巨人さん、巨人ちゃん」と呼ばれるようになったそうだ。

 大先輩にも怖いものなしで物申す巨人師匠だが、番組では後輩の芸に対する意外な心情も吐露した。上方漫才界の頂点を極めた今もなお、芸歴で30年下回る銀シャリの秀逸なネタをみると、「なぜ自分たちにこれができないのか?」と悔しがるというのだ。

 全ては「清く正しく面白く」あるために。巨人師匠は今日も後輩たちと同じ舞台に立つ。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

この連載を見る:
令和元年7月22日第3218号7面 掲載

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