【持続可能な経営を実現する 未来へつなぐ賃金改善】第1回 防衛的な賃上げの限界 “虚しさ”感じる人も 努力や貢献と無関係では/津留 慶幸
「今年だけ」いつまで?
この数年、「賃上げ」は日本企業の最優先課題の一つになっている。原材料の高騰、物価上昇、円安、少子高齢化による労働力不足、コロナ禍が明けたことによるインバウンド需要およびそれに伴う労働需要の回復などの要因が重なり、多くの企業は否が応でも賃上げを迫られている。とくに中小企業では、業績が伴わないにもかかわらず、従業員の生活支援や採用競争力確保のために賃上げせざるを得ない状況にある。このように企業の収益力や生産性の向上とは無関係に、外的圧力に対応する形で行われる賃金の引上げは、「防衛的賃上げ」と呼ばれる。従業員の不満や人材の流出を抑える一定の効果はあるが、その範囲や期間は限定的である。
冒頭に述べたとおり、長く続いたデフレ下の賃金抑制傾向が賃上げに転じた背景には、さまざまな要因が絡み合っている。なかでも大きな契機となったのは、2022年2月から始まったロシア・ウクライナ問題であろう。賃金・人事コンサルタントである筆者のもとに、「物価高に対応するための賃上げがしたい」という旨の相談が最初にあったのが、22年8月頃だったと記憶している。当時はまだ様子見の企業が多く、私自身も動きがあるとしても23年の春闘の時期と考えていたので、その動きの早さに驚いたことをよく覚えている。それ以降、22年冬から23年春にかけて、賃上げに関する相談を他の顧客からも受けた。ただ、「原材料などのコストが上がっている、あるいは上がる予測のため人件費を引き上げる余力がない」、「今年(23年4月)の賃上げは見送って、来年まだこの状況が続いているようだったらそのときに考える」という顧客もまだ多かった。読者の皆様の企業でも、“今年だけ(今年だけでこの賃上げの流れは終わってほしい)”という期待とも願望ともいえない思いで最初の賃上げを行ったところも多いのではないだろうか。…
筆者:クラフト人事コンサルティング 代表取締役 津留 慶幸
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら