【主張】条件改善は意思疎通から
厚生労働省が5年ぶりに実施した労使コミュニケーション調査によると、「賃金、労働時間等労働条件」に関し、労働者とのコミュニケーションを「重視する」事業所の割合は、6割弱だった。反対に使用者とのコミュニケーションを「重視する」労働者の割合は、5割強となっている。
この5年間にコロナ禍を経験し、デフレスパイラルから物価上昇局面に移行したにもかかわらず、前回調査(令和元年)からこの傾向は変わっていない。前々回(平成26年)と比べても、変化は±5ポイントの範囲に留まっている。
この設問は、計8項目を示したうえで、「どのような面で労使コミュニケーションを重視するか」を複数回答で尋ねるもの。事業所調査で最も高い割合を示したのは「日常業務改善」76.1%で、次いで高かったのは「作業環境改善」71.7%。いずれも生産性向上にかかわる要素とはいえ、必ずしも労働条件の改善に結び付くとは限らない。
一方、労働者調査の首位は「職場の人間関係」66.0%で、「労働条件」との差は15ポイントに及ぶ。人的資本経営が関心を集め、物価上昇を上回る賃上げが引き続き重要政策とされるなかでも、個人の関心は自身の周辺に向いているのかもしれない。
2023年10月に「新しい時代の働き方に関する研究会」がまとめた報告書は、働き方・キャリア形成に関する労働者の希望が個別・多様化し、「集団的労使コミュニケーションの役割がこれまで以上に重要」と指摘。企業による個別管理の傾向が進めば賃金・待遇差の拡大が想定され、労働者間の公平性・納得性確保も課題になるとしていた。
近年の労働事情のめだった変化といえば、男性の育児休業取得率の急増や学卒初任給の高騰が挙げられる。他方で連合の6月5日時点の春闘集計によれば、「60歳以降の処遇のあり方」に関する要求・取組件数は394件を数えたが、回答・妥結に至った割合は40%。同様に「人材育成と教育訓練」では37%、「治療と仕事の両立の推進」では36%だった。人への投資が進められるなか、労使間の意思疎通には十分配慮したい。