【主張】罰則で防げぬカスハラ禍
対象にならない言動は、許容されるとの認識を招きかねない――。経済同友会は、カスタマーハラスメントに関する意見書を公表し、雇用管理上の措置義務とすることには同意するとしつつ、罰則は不要との姿勢を鮮明にした(関連記事)。同時に消費者庁らが中心となって学ぶ機会をつくり、消費者としての倫理観を醸成することが必要、とも訴えている。
大手各社では今春以降、堰を切ったように対応方針を明らかにする動きが広がった。場合によってはクレームへの対応を打ち切り、悪質な場合は以降の来店を拒んだり、警察へ通報するとした例が少なくない。公表済み企業の顔ぶれをみると、交通、小売、外食、情報通信、金融などが多く、一般消費者を顧客とする業界では、着実にその数が増えているのが分かる。
厚生労働省の検討会(雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会)が8月にまとめた報告書では、すでに「企業による対策を雇用管理上の措置義務とすることが適当」とされている。これを受けて労政審の雇用環境・均等分科会で議論が始まっており、年内にも具体的な方向性が固まる見通しだ。
厚労省が昨年12月から今年1月にかけて実施した調査(令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査)によれば、過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為」に関して相談があったとする企業の割合は27.9%に及んだ。パワハラ(64.2%)はともかくセクハラ(39.5%)の水準に迫る現状は、社会的な対策の必要性を物語る。
不当な要求で従業員の時間を奪うカスハラは、企業にとって生産性向上を阻むファクターになる。個人のメンタル面への影響も無視できないところで、被害者の休職や離職にもつながりかねない。あるいは今後、大手の店舗から締め出された“常習犯”が、体制整備の立ち行かない中小企業に流れてくるケースだって考えられる。百害あって一利なしとはこのことで、現場の人手不足を助長する暴挙は、サプライチェーン、ひいては産業界全体を挙げて根絶をめざすべき課題だろう。