いま、過渡期の中にある労働法~眼前の諸問題を俯瞰的に理解するために~/弁護士 倉重 公太朗

2016.05.21 【弁護士による労務エッセー】
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労働法改革と真剣に向き合う時期に来ている

 問題の根本は、我が国の労働法体系はもはや制度疲労を起こし、労働法の「ひずみ」がさまざまな形で現れており、労働法改革を真剣に考えなければならない時期に来ているという点にある。

 特に、その「ひずみ」の影響を最も受けているのは、非正規雇用の割合が高い若年層である。

 バブル期の若者と現在の若者を比べた場合、質的に差異があるだろうか。現在、非正規労働者として働く若者を「努力が足りない」と一蹴することはできない。若者が非正規労働者に甘んじているからこそ、上の世代は解雇権濫用法理の庇護を受けて安定した雇用というメリットを享受しているのであるから。

 筆者が考える労働法を改革すべきテーマは、以下の3点である。

1 本当の意味での非正規労働者対策とは何か

 若年層の非正規割合上昇は社会問題化しており、厚生労働省はさまざまな対策を講じている。近年の例でいえば、偽装請負・日雇い派遣への対策や前述の派遣法改正、パート労働法改正、労働契約法改正による無期労働契約転換権、また今後検討される同一(価値)労働同一賃金※(「価値」労働である点に注意)などである。

 しかし、残念ながらこれらの対策が功を奏しているとはいえない状況である。なぜなら、これらはいずれも場当たり的対策であって、根本的な対策ではないからである。

 すなわち、非正規問題を考えるにあたって、立脚しなければならない視点は、そもそも企業が景気変動に応じて、人件費を調整すること自体は世界共通の自然事象であり、それ自体が「悪」ではないということである。「人件費は無限にある」、「企業は内部留保をため込んでいるから全員正社員にできるはずだ」などという現実を見ない前提であっては議論にすらならない。

 問題の本質は、人件費調整の「バッファー」的要素を誰が引き受けるのかということである。現状は、正社員に対する解雇権濫用法理の保護が強すぎるため、非正規労働者がこれを一手に引き受けているという、あたかも身分制のような極めていびつな構造である(さらに言えば、大企業と中小零細企業におけるダブルスタンダード状態であり、中小零細の労働者にしわ寄せが行っているとも言える)。

 そこで、解雇規制の緩和により、正社員の解雇ハードルを非正規労働者に近づけることが重要だと考える。正規・非正規を区別することが無意味になるので、正規・非正規という雇用形態での区別ではなく、スキル・経験・技能により公平に選別することになり、真の意味での非正規雇用対策になると筆者は考えている。

 一方で、労働者の保護については、金銭解決の水準を法律で引き上げればよい。現在、労働審判などで解決金を貰って退職和解しているケースが、簡単に、少なくとも勤続年数に応じた最低補償金(例えば6ヶ月分など)を貰えるとすれば、わざわざ裁判所の紛争解決手続を利用しようという労働者も減るであろう。

 解雇権濫用法理の緩和は労働者の権利の侵害だという向きもあるが、現状のように「正社員だから」、「非正規だから」という理由で、能力・スキルは関係なしに雇用保障の差異がある事の方がよほど問題である。

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