マイカー通勤・業務使用に関するリスクマネジメントのポイント/弁護士 古屋 文和

2020.07.11 【弁護士による労務エッセー】
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④ マイカー使用の許可(許可要件の確認)

 事故防止策を尽くしていても、事故の可能性をゼロにすることはできません。

 そこで、マイカーの保険制度を利用して、損害賠償に備えておく必要があります。

 許可の際に、従業員から、以下の資料を提出してもらい、保険内容等を確認します。

【許可時の確認資料】
運転免許証、自動車検査証、自賠責保険・任意保険の保険証券、保険金支払状況のわかる資料(領収証、引落口座の通帳)

〇 自動車・二輪車の場合

 自動車・二輪車については、法律上、加入義務のある自賠責保険と、加入義務のない任意保険があります。

 許可の要件としては、自賠責及び任意保険に加入し、事故の相手の人損・物損の全額を賠償できる状態であることが必要です。

 では、保険に関するチェックポイント(保険金が支払われないケース)を確認していきます。

● 自賠責保険切れ
 自賠責保険切れの場合、自賠責保険の保険金は支払われません。自賠責保険の保険金の上限は、例えば、後遺障害のない傷害(けが)の場合120万円、死亡の場合は3000万円です。
 この場合、任意保険に加入していても、自賠責保険の補償部分については任意保険から保険金は支払われません。

● 任意保険未加入
 任意保険に加入していない場合、自賠責保険の範囲を超える損害について、保険金は支払われません。
 主な任意保険の加入率は以下のとおりです(2019年3月時点の情報)。自家用普通自動車については約2割の方が対人・対物賠償に加入しておらず、軽四輪乗用車や二輪車については、さらに加入率が低いです。

対人賠償 対物賠償
自家用普通自動車 82.6% 82.6%
軽四輪乗用車 77.4% 77.4%
二輪車 43.0% 43.8%

(『2019年度 自動車保険の概況』 2020年4月発行 損害保険料率算出機構からデータを引用)

● 保険料滞納による失効
 任意保険の保険料滞納により保険契約が失効している場合があります。
 多くの保険会社で、滞納発生後、数か月以内に保険料が支払われなければ保険契約が失効し、保険料滞納または失効後の事故については、保険金は支払われません。
 よって、一度、保険料の滞納がないことの確認をしただけでは不十分であり、定期的に保険料の支払状況を確認する必要があります。

● 運転者限定特約
 任意保険に運転者限定特約がついている場合があります。
 例えば、『従業員が、通勤に使っている自分の車が故障したため、父の自動車で通勤し、交通事故を起こした。その車の任意保険では、運転者限定特約(夫婦のみ)がついていた。』というケースです。
 この場合、従業員は、保険金が支払われる対象の運転者に含まれていないので保険金が支払われません。

〇 自転車の場合

 自転車の事故の場合も、高額な損害賠償請求がなされることは珍しくありません(例えば、東京地判平15・9・30の事案では、自転車の事故で相手の方が死亡してしまい、合計6779万円の賠償責任が認められています)。

 自転車の場合は、自動車や二輪車(自賠責保険及び任意保険)とは異なり、様々な保険商品があり、例えば、各損害保険会社の損害保険(個人賠償責任保険など)があります。

 自転車通勤・業務使用を許可する要件としては、やはり対人・対物賠償がいずれも無制限であることが必要です。

 個人賠償責任保険等の加入率は、以下のとおりです。

 全国 56.0%
※調査期間 2018年12月27日~2019年2月11日
回答者数:20,811人(人口比率に配慮し選定)
au損保調べ(https://www.au-sonpo.co.jp/corporate/news/detail-194.html)から引用

〇 会社が加入している保険による補償

 会社が加入している店舗総合保険や施設管理者賠償保険によって、従業員の交通事故の損害賠償についての保険金が支払われるかという点については、各保険の内容等によるため、確認したい場合は、保険会社等に問い合わせる必要があります。

 もっとも、これらの保険から保険金が支払われる場合があるとしても、最終的には個別の事故についての保険会社の判断や、訴訟の結果によることになるため、リスクマネジメントの観点では、やはり従業員のマイカーにかかる保険による補償がなされるように管理しておくことが重要です。

⑤ 定期的な許可の更新(許可要件の確認の継続)

 許可後も、保険料の支払状況等を確認するために、定期的に許可を更新し、資料の確認を行ってください。更新の頻度を高めればリスクを低減できますが、会社と従業員の負担も生じますので、各会社の状況に合わせて、更新頻度を決定してください。


弁護士 古屋 文和 氏

弁護士 古屋 文和(ふるや ふみかず)
(ひまわり法律事務所)

【自己紹介】
顧問業務(予防法務・リスクマネジメント)及び使用者側の労働事件に加えて、経営者向けのセミナーも行っている。
モットーは、『正しいものさしに基づき、会社(社会福祉法人・個人事業主)が健全に発展するためのアドバイスを行うこと』。

【略歴】
2012年3月  中央大学法科大学院卒業
2012年9月  司法試験合格
2013年12月  山梨県弁護士会 登録(66期)
2018~2019年 山梨県立大学 非常勤講師(経営法務論)

弁護士古屋文和のホームページ
https://bengoshifuruya-law.com/

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