【ひのみやぐら】食料品製造業に農水省が本腰
食料品製造業の労働災害が減少しない。厚生労働省では令和2年労働災害発生状況確定値を発表したが、死傷災害は7958人で製造業のなかでは最も多く、死亡災害では13人と輸送用機械等製造業、金属製品製造業に次いで3番目となっている。
職場環境をみると、同じ作業の繰り返しで立ち作業が多く疲労が溜まりやすい、他の製造工場と比べ機械の可動部との距離が近いなどさまざまな危険有害要因があり、災害のリスクは低くない。
雇用環境も特徴的で、パートタイマーやアルバイト、派遣社員などの非正規社員が多い。雇用期間が短かく、入れ替わりも激しいので教育で効果を上げることが難しい。企業側も異物混入や食中毒など食の安全に配慮する部分が多く、限られた人材で労働災害防止にまで手が回らない状態だ。食品は鮮度を気にするため、ジャストインタイムの納期順守が必須。このような経営課題が山積みで、働く人の安全は後回しになっているのが実態といえる。
最も問題なのは、労使双方とも大ケガをするような職場ではないと認識している人が多いということだ。製造業の業種のなかで、最も死傷災害が多いという事実はあまり知られていないのかもしれない。
こうした状況に対応すべく、食料の安全・安定供給を所管する農林水産省が食料品製造業の労働災害防止に本腰を入れた。作業安全のための規範や事業者向けチェックシートを作成、「食品産業の安全な職場づくりハンドブック」を作り、さらに安全研修を本格化させていく考えだ。
労働災害を発生させると、労災保険の保険料負担が増えるだけでなく、労働安全衛生法違反の容疑で書類送検されたり、訴訟で企業の落ち度が認められれば多額の賠償金を支払うことになる。
さらに近年は退職した労働者が労働環境をSNSで拡散し、企業の評判が悪くなるというダメージも加わるようになった。食品産業にとって商品や企業のイメージ悪化は、取り返しのつかない損失といえる。
企業は他の経営課題に忙殺されるところが多いかもしれないが、労働災害防止に対する優先度を高めてほしい。