【主張】賃金不払いは二重の損失

2023.08.03 【主張】
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 厚生労働省は、賃金不払い事案の公表方式を改めた(関連記事=未払賃金 2万社で79億円支払う 昨年の指導結果公表 厚労省)。従来は割増賃金の不払い事案のうち、100万円以上遡及払いした企業のみを集計してきたが、令和4年分から労働基準監督署が取り扱った全数を事業場単位で明らかにしている。残業代に関する「是正結果」に留まらず全体像がうかがえ、さらに解決率まで知ることができるようになった。

 集計結果によれば、昨年1年間に全国の労基署が取り扱った賃金不払い事案は約2万件。対象労働者数は18.0万人で、不払い総額は121億円に上っている。退職金や休業手当も含む額とはいえ、百万時間単位で不払いが生じていたことになるのだろう。1人当たり6.7万円は、概ね定期昇給分に相当する。

 裏を返せば、これらの労働は当初、商品やサービスの価格に反映されていなかった。政策課題として生産性向上や価格転嫁が掲げられてきたなか、一部の企業は違法な労働を投入して不当な利益を生み、かつ実質的な賃下げを行ってきたことになる。公正な競争環境を二重に阻害する行為は、看過できない。

 一方、労基署の指導を受けて使用者が支払った賃金は計79億円に上り、1事案における最大支払い額は2.7億円だった。不払い事案の総額121億円に占める割合は65.5%で、未だ3分の1が支払われていない。件数や労働者数ベースでは90%台後半の“解決率”を示すのに対し、小さくない差が生じている。倒産などによる不払いも含まれるため、未払賃金立替払制度に頼らざるを得ない。

 従来の公表方式に基づく令和3年度(同年4月~4年3月)の是正結果では、6.5万人に総額65億円が支払われていた。同様に令和4年(同年1~12月)に100万円以上支払われた案件の是正結果(割増賃金以外も含む)は、6.1万人に対し計56億円。単純に比較すれば人数、遡及払い額とも減少している。

 令和5年は、4月から中小企業でも月60時間超の割増率が50%以上となっており、秋には地域別最低賃金の大幅アップも控える。これらの効果を確保するためにも、さらなる改善を期待したい。

令和5年8月14日第3412号2面 掲載

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