【ひのみやぐら】危険体感に楽しさは不要

2019.06.25 【ひのみやぐら】
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 「危険感受性を高める」という言葉がある。厚生労働省によれば、「何が危険か、どうなると危険な状態になるのかを直感的に把握し、危険の程度・発生確率を敏感に感じ取る能力」のことだそうだ。同様の能力が近年低下しているため、その向上、持ち直しを通じて、長期的に減少傾向にある労働災害のさらなる減少をめざすという。

 その具体化の一つが「危険体感教育」で、ちょうど2年前の本誌(2017年7月1日号)が外部の人も受講できる同様のサービスが増えていると伝えていた。以後、そうしたサービスの増加は確実であろうから、是非一度足を運ばれるといい。

 高所からの墜落、回転体へのはさまれ・巻き込まれ、建設機械などの転倒、化学薬品リスクなど、実機かほぼそれに近い体感機や施設・設備を使ったケースが現在でも主流だが、最近では「VR(バーチャル・リアリティ)」という仮想現実空間を使った体感教育も現れている。模擬機を使った従来型よりリアルな危険空間を作り出せるため、ゲーム世代も「楽しみつつ」受講できるようだ。

 問題は、「楽しみつつ」の部分。楽しかったという感想をわずかでも受講生に抱かせたら、その教育は失敗である。危険を危険と感じにくくなってしまった「人の感性」を研ぎ澄ますのが体感教育の目的であるはずで、「怖かった」という思いのみを職場に持ち帰らせればよい。

 実際に被災させるわけにはいかないし、受講者もケガをしないことは最初から分かっているから限界があるのは確か。かといってこの分野の教育に「楽しかった」の感想はいらない。JR西日本の体感研修受講後の社員が「怖かった」と話していたとする昨年末の批判的報道も分からなくはないが、類似の場所で行う保線作業のような業務もある。福知山線事故の教訓を背に公共安全の使命を社員に植え付ける方法として、あれほどの批判にさらすべきだったか疑問だ。

 危険に対する感性を鈍らせている原因の追及こそが本来大事かと思うが、パソコンやスマホに慣れて書けたはずの漢字が書けなくなってしまった現象と同様、災害を減らすために先人たちが積み上げてきた物理的努力の結果が「今」という皮肉な見方もできる。人命を脅かす大きな災害を減らしてきた裏側で徐々に人の危険感受性も低下してきたのであり、安全な環境・状態への「慣れ」をどう克服するかが問われている。

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2019年7月1日第2333号 掲載

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