働くということへの問い/富樫社労士事務所 代表 富樫 善明

2017.08.20 【社労士プラザ】

富樫社労士事務所
代表 富樫 善明 氏

 私は社会保険労務士事務所の2代目であり、幼少の頃から事務所の片隅で様ざまな職業人に接し、深く心に残る大人とそうでない大人をみてきた。

 そのせいか、働くということと人間性についての関心がとりわけ深く、いつしか人間の働く原点を知りたいと思うようになった。

 そして大学卒業後、農業と漁業に2年間労働者として携わった後、労働と貧困のかかわりを研究目的として大学院に進んだ。

 人間の働く原点とは何だろうか。それは答えの出ない問いである。

 酪農を中心に畑作・稲作に携わっていた頃、夜が明ける前の空の下で凍える手を温め、生き物の息遣いを聞きながら体を動かし、大地の恩恵を受け取りながら働く日々においては、働くということに対する迷いの付け入る隙など一寸もなかった。土佐のカツオ一本釣り漁船で働いていた頃、常に広大な海と空を前にして、大小の波に傾く船に互いの命を預けながら自身のバランスを保ち、言葉にならない勇ましさで戦いのごとく働く日々においては、人間関係に対する迷いの付け入る隙など一寸もなかった。

 また、高齢化が進む第一次産業従事者の諸先輩の気骨から伝わる人間性に触れつつ多くの話を聞くなかで、戦後の貧困は、たとえ貧しくとも、働く人間の「自分軸」がしっかりとあったのではないかと考えさせられた。

 その一方で、現代の貧困は働くことに対する自分軸を失う貧しさでもあるのではないだろうか。

 いじめ・嫌がらせに関する労働紛争の増加や、若年者の早期離職に関する課題の背景には、労働力人口減少に伴う深刻な人材不足のほか、多くの人が自分自身の働き方や職場内の人間関係に悩み苦しむ姿がうかがえる。

 確かに世間一般では、夜明け前から働くこともあまりなく、目にみえる波もない。職場環境そのものに対して自身のバランスを保つような自分軸の感覚が自然に備わるわけでもない。自分自身の働き方や人間関係に迷うのも当然である。

 そして最近、働き方を全社的に話し合い、雇用改善につなげるコンサルティング業務が少しずつ増えている。

 社労士として労使の輪に入り、労使相互にとっての働きの軸を形成しようとするものだが、その過程には常に曖昧な空気感が波のように漂っている。この目にみえぬ波にぶれず、なんとか立ち向かっている今日この頃である。

富樫社労士事務所 代表 富樫 善明【秋田】

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掲載 : 労働新聞 平成29年8月21日第3125号10面

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