【ひのみやぐら】労働災害増加に危機感を
令和3年の労働災害発生状況がまとまった。死亡者数は867人と前年と比べ65人の増加となった。労働災害は長期的には減少傾向にあるものの、4年ぶりに増加に転じてしまった。数字を押し上げたのは、建設業と陸上貨物運送事業だ。建設業の前年の死亡者数は258人で30人も増加した。陸上貨物運送事業は87人から95人と8人増えた。
建設業の災害増加の背景には、安全衛生管理活動の形骸化、元請け・下請け間のコミュニケーション不足が指摘されている。さらに原因を掘り下げると人手不足があるという。厚生労働省によると、建設業の有効求人倍率は依然高く、令和3年度の建設投資見通しは前年度比2.9%増となっていたそうだ。
人手不足は現場の混乱を招く要因にほかならない。例えば、建設業で死亡災害が増加傾向にある神奈川労働局では、特に管理者クラスの人員が手薄で、労働時間が増加している実態が見られるという。管理者が多忙のため、現場に目が届かず、作業員の勝手な判断で機械や設備を扱い事故となるケースがあるようだ。
陸上貨物運送事業も似た状況に陥っている。現在、業界の大きな課題となっているのが、ドライバー不足だ。さらに新型コロナウイルス感染症拡大を防ぐため、外出自粛が続いており、巣ごもり需要の影響による宅配便取扱個数が増えている。人手不足で1人のドライバーにかかる負荷が増加し、過重労働につながっている。疲労感が抜けないままの運転は、事故原因になる。事故の型別で「交通事故(道路)」は最も多く38.9%も占める。
人手不足は両業界に限らず、わが国の全産業の問題でもある。時間、人員に余裕のある業務体制にしようと現在、IT化の促進、多様な人材の確保、誰もが働きやすい職場環境づくりなど官民上げて取り組んでいるところだが、災害増加が予断を許さない状況にあるなか、取り急ぎ穴の空いている箇所を塞ぐ作業も必要だろう。
今年の全国安全週間では、一人ひとりが危機感を持って運動に取り組んでいただきたい。経営トップは先頭に立って旗振りを。