【主張】最賃が担う役割再検証を
時給63~64円の引上げは、フルタイム換算すれば約1万円になる――「2020年代に全国平均1500円」という政府目標から逆算される年平均7.3%には及ばなかったものの、6.0%の目安は十分に高い。実質的に月8000円増だった昨年を上回る引上げは、パートタイマーの雇用管理に従来以上の影響をもたらすだろう。
中央最低賃金審議会の公益委員見解などをみると、“引上げ率を高める理由”は確かにうかがえる。4%程度の物価上昇、2年連続5%超の賃上げに加え、規模30人未満事業所における勤続者の賃上げ率も改善した(2.8%→3.2%)。ただし、それがなぜ6.0%になるのかという“答え”は見出し難い。
仮に目安どおりの改定が行われれば、すべての都道府県で1000円を超え、連合の掲げてきた「誰もが時給1000円」が実現する。一方でわずか1円とはいえ、低いランク(=Cランクの13県)に上位ランクより高い目安を提示した影響も見逃せない。すでに石川(70円増の1054円)や福井(69円増の1053円)の地方最低賃金審議会では、目安を超える答申に至っている。
地場の中小企業にとっては、高卒初任給のチェックも欠かせない。とくに所定内を1日8時間と定める場合、もはや16万円台は厳しい。昨年の賃金構造基本統計調査では、新規高卒者10.7万人のうち、17万円未満の割合は全体の9%だった。1000人以上の大企業では2.3%に過ぎないが、10~99人に限れば17.3%、概ね6人に1人の割合となっている。
最賃法第1条のいう「国民経済の健全な発展」のためには、最賃を払えぬ事業は淘汰されるべき……なのだろうが、少なくとも地方最賃審はそのためのハードルを検討する場ではないはず。“越境バイト”などの働き手の流出を防ぐ機能についても、果たして罰則を伴う地域別最賃が担うべきものなのか。目安決定に異例の継続審議を要したことを踏まえ、改めて近年の大幅改定の効果と影響を検証し、今後のあり方を考えるべき時期なのかもしれない。