【主張】地賃審こそ三要素重視を
令和7年度の地域別最低賃金改定の目安額に関する審議が中央最賃審議会でスタートしたのに続き、地方審議会でも引上げに向けた議論が始まった。
地方審議会は、最賃決定の「三要素」に基づき示された目安額を踏まえつつ、地域の実情を考慮して議論し、各都道府県労働局長に引上げ額を答申することになる。ただ近年は、隣県などの最賃額を意識し、大幅に上乗せした額を答申するケースもめだつ。目安とかけ離れた金額が答申され続ければ制度自体が形骸化しかねない。三要素に基づく審議の徹底を求めたい。
全都道府県を3つのランクに分けて目安を示す「ランク制」の下、昨年度は、全ランクで同額の50円(5.0%)が引上げ額の目安として示された。生活必需品を含め、頻繁に購入する品目の物価上昇率が5.4%(5年10月~6年6月)に上ったことなどから、最賃決定の三要素である「労働者の生計費」、「賃金」、「通常の事業の賃金支払い能力」のうち、とくに生計費を重視している。
これに対して地方審議会では、27県が目安を上回る引上げを答申。目安より5円以上高い金額が相次ぎ、なかでも徳島は34円上回る84円を答申している。隣県などとの人材獲得競争の激化を背景に、徳島や岩手、佐賀など県知事が地方審議会に大幅な引上げを迫るケースもめだった。
今年度の中賃審での目安審議においては、労使ともにこうした状況に疑問を呈している。使用者側は、「三要素によらない隣接地との競争や最下位の回避を意図した審議が散見され、賃金の低廉な労働者に対するセーフティーネットという本来の目的から乖離している」と指摘。労働者側も「地域の自主性がこれまで以上に発揮された結果ではあるが、地方審議会における目安の意義が問われかねない事態」と危機感をあらわにしている。
企業の賃金支払い能力を超える最賃引上げは、企業の倒産を招きかねず、かえって地域における雇用の場を減らす恐れがある。各地方審議会は、三要素を軽視することなく、審議を尽くしてほしい。