【GoTo書店!!わたしの一冊】第41回『ボンクラ映画魂 完全版:燃える男優(オトコ)列伝』杉作J太郎 著/角田 龍平

2021.11.11 【書評】
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巧みな台詞引用術!

 著者は詩人、漫画家、俳優、映画監督と様ざまな肩書きを持つ才人である。現在は、地元松山の南海放送で『杉作J太郎のファニーナイト』のディスクジョッキーとして活躍している。先の衆議院議員総選挙では、同局のYouTubeチャンネルで報道局長と共に選挙特番の司会も務めた。

 衆院選の投票率は戦後3番目に低い55.93%と低調だった。「各党の指導者にもう少しカリスマ性があれば……」。一瞬そんな考えが私の脳裏を過ぎったが、本書の一節を思い出し、直ぐに打ち消した。本書は、スクリーンで綺羅星のごとく輝いた数多の名優について五十音順に解説を加えている。たとえば、か行に名を連ねる加藤武の場合はこうだ。

〈NHK放送センターでインタビューをさせていただいた。今までやられた役で一番自分自身に近い役はなんでしょうかという質問に対し、ズバリ一言。「『仁義なき戦い 代理戦争』の打本親分ですかな」「彼はカリスマ性がまったくないでしょ。指導者はあれでいいんです。フセインなんかも打本を見習ってもらいたいですな。そしたら戦争にはならんでしょう」。丁度、湾岸戦争たけなわの頃であった。〉

 たったこれだけ。本書は紙幅の都合もあって、俳優たちの出演作品を網羅的に解説しているわけではない。彼らが発した台詞のごく一部を切り取って紹介する手法を採用している。政治家の舌禍事件が起こる度に「発言の一部を切り取ったもので、全体としてみれば問題ない」と擁護する者がいるが、「切り取り」は必ずしも悪ではないことを本書は教えてくれる。

 わずかな行数で、戦中派の加藤の平和志向、『仁義なき戦い』がヤクザ映画に名を借りた反戦映画であることを端的に表現してみせた著者の慧眼が随所に光る。お腹の張り出したTシャツ姿で選挙特番の司会を務めた著者の起用は、決して南海放送のミスキャストではなかった。

 衆院選から2日後。私は、大阪のニュース番組に出演した。選挙で躍進した大阪を基盤とする政党の副代表は、今どき珍しいカリスマ性のある指導者として在阪の放送局で引っ張りだこだ。番組は、同党と彼を礼賛する方向で進もうとしていた。その時、私が思い出したのは、本書の石立鉄男の章だった。

 〈そもそもが相当男気溢れる人のようだ。NHKの生ワイド『スタジオパークからこんにちは』に出演した際、北海道から直送された馬鈴薯で作った料理を食べて、「しつこいなァ……」と顔をしかめたのである。生産者の人たちが見ている手前、何とか「おいしい」と言わせたい司会者が少し皮肉めいたことを言った。すると、男・石立鉄男は言い捨てた。「じゃあ、ナニ食べてもうまいって言えばいいワケ?」(中略)いつかご一緒に仕事ができたら、と願っていたが、俺の長期低落がその実現を阻んだ。かくなる上は、俺の体内に生きる石立鉄男的なものを育てていきたい。〉

 スタジオの同調圧力に抗うべく、私は体内の石立鉄男的なものを発動させて、口を開いた。

(杉作J太郎著、徳間書店刊、2200円税込み)

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角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平 氏

選者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。

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令和3年11月15日第3329号7面 掲載

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