【GoTo書店!!わたしの一冊】第36回『京都の中華』姜 尚美 著/スーパー・ササダンゴ・マシン

2021.10.07 【書評】
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恋しき“女の街”の一皿

 TBS系列の番組『町中華で飲ろうぜ』が好きで、再放送や総集編を含めると、多い時は週3~4回のペースで視聴している。黒帯級の呑兵衛たちが集まる下町の名店を、自らの嗅覚と聞き込みのみで探し当てる玉袋筋太郎さんの江戸っ子っぽさと、どのお店でもご主人や常連客の懐に飛び込める高いコミュニケーション能力(注文する料理の的確さや食リポの正確さ)に惚れ惚れしている。

 ロケは、東京だけに留まらず全国に及ぶ。玉袋さんが福岡で「ここは間違いねえよ」とガタついた店の扉を開くと、「町中華」といわれる渋い店の数々は、日本中どこも時空が全てつながってるのではないかというくらい、亀有や蒲田のそれと同じ空気と時間が流れている。「強者は強者を知る」のは、町中華も同じである。

 そんな同番組でも、「むむ? ちょっと今日の相手は勝手が違うな」といわんばかりに、玉袋さんが思わず構えを直した町が「京都」なのである。とくに祇園に昭和41年から店を構える『竹香』で提供される料理の数々は、お座敷に匂いを持ち込むことを嫌う花街ならではの、にんにく控えめ、油控えめ、強い香辛料は使わないあっさり中華なのだそうだ。百戦錬磨の江戸っ子をここまで硬直させる京都の町中華とは、一体どんな猛者だろうか。

 ぜひ手合わせしてみたい。品の良い女将さんが運ぶビールの大瓶と、少し緊張して背筋を伸ばしたまま食べる「えびかやく巻き揚げ」は一体どんな味がするのだろう? コロナ禍でなければ、京都には親友の弁護士・角田龍平がいる。相談事を3つくらい思い出せば、新潟から出張する理由になり得るのに。

 気になる。祇園クオリティの『竹香』の「肉団子」がどうしても食べたい。そんな悩みを知った友人が紹介してくれた本が、本書である。姜さんは京都出身の編集者兼ライターで、2012年に刊行されて以来、京都の食いしん坊たちの間でバイブルのごとく読み継がれていた。16年に文庫化され、今は電子書籍にもなった。

 京都の中華とは何か? というテーマの前書き「街と味」(超名文!)に始まり、餃子、鶏、海老、肉、飯、麺と全5章17店舗に及ぶ、うっとりするような紹介文にトリップする。もちろん『竹香』についての記述もたっぷり。「うちはあっさり、少々甘め。主人はいつも女性に好まれる料理を作りたいと言うてました。女の人がおいしいと言うたら男の人もおいしいと言わはるはずやと思てたみたいです」。

 そう語る大女将のことばが印象的だった。「祇園は『女』の街で、この街の主は女。そしてこの街の味を決めていくのもまた女なのである」。番組で玉袋さんを通して感じた敷居の高さのようなものの謎を、なんと明快に解くことばではないか。

 角田弁護士と京都の町中華をハシゴする日を待ちわびていたが、これはもう少し自分のポテンシャルに期待して、ロマンチックな町中華めぐりをシミュレーションしても良いような気がしてきた。

(姜尚美著、幻冬舎文庫刊、880円税込)

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プロレスラー スーパー・ササダンゴ・マシン 氏

選者:スーパー・ササダンゴ・マシン
地元・新潟ではテレビの司会などをし、さらには金型メーカー・坂井精機㈱の3代目社長としての顔も。

同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。

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令和3年10月11日第3324号7面 掲載

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