【GoTo書店!!わたしの一冊】第43回『なぜ危機に気づけなかったのか』マイケル・ロベルト 著/藤村 博之

2021.11.25 【書評】
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問題発見の重要性を説く

 問題は発見できなければ解決できない――自明のことなのにしばしば忘れがちである。問題解決の手法を教える書籍はたくさんあるが、問題を発見するにはどうすれば良いのかを教えてくれる本は少ない。

 「はじめに」の冒頭に、ケネディ政権で国防長官を務めたマクナマラ氏がハーバード・ビジネススクールで講義をしたときのことが書かれている。「マクナマラ」は、ある年齢以上の人たちにとって懐かしさを呼び起こす。キューバ危機やベトナム戦争に関する報道で毎日のように接していたからである。

 マクナマラ氏は、ハーバード大学の出身であり、教員も務めていた。彼が著者に「授業にケーススタディーを取り入れていますか」と質問をした。著者は、ケーススタディーは授業ですばらしい効果を上げていると答えた。その点には同意したうえで、マクナマラ氏はケーススタディーの欠陥を指摘した。それは、何が問題かが分かっていることだという。

 確かに、ケーススタディーは、実際の出来事を題材として作成されるので、何が問題かが明確である。ある組織で発生した問題を当事者たちがどう解決したかが述べられている。マクナマラ氏は、現実の世界では、問題解決の意思決定を行う前に、まず問題を発見しなければならないという。リーダーが、解決すべき問題を特定できなければ、的外れな行動を取って手遅れになったり、無駄なことにエネルギーを使ったりすることになる。氏は、問題発見の重要性を強調した。

 問題発生の初期段階では、何が問題か分からないのが普通である。最初に来るのは、「何かいつもとは違う」とか「何か変だな」という違和感である。違和感を持ったときが問題発見の第一歩なのだが、私たちはしばしばそれを放置する。その理由は、なぜ違和感を持ったかを理路整然と説明できないからである。上司に「何か変だと思うんですけど…」といったとき、「何がどうおかしいのかちゃんと説明しろ」と問われるのが分かっているので黙ってしまう。著者は、直観を排除することが問題発見を遅らせると説く。

 「第5章 点を結びつける」に9・11同時多発テロのことが出てくる。全米各地の捜査機関は、何か大変なことが起こるという情報を掴んでいたのだが、情報が断片的だったために、誰もそれらを結び付けて考えようとしなかった。その結果、問題発見の機会を逃し、あの大事件が起こってしまった。後になって振り返ると兆候があったことが明白なのだが、それを事前に察知することができなかったのである。

 組織の中で問題が発生していると、必ず兆候が現れる。ケガが増えたとか、欠勤者が続けて出るとか、何の兆候もなしに、いきなり問題が表面化することはないといって良い。組織内の問題をいち早くみつけて対処するには、組織構成員が問題発見能力を高める必要がある。本書は、職業人としてより良い仕事をするための必読書である。

(マイケル・ロベルト著、英治出版刊、2090円税込み)

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法政大学大学院 イノベーション・ マネジメント研究科 教授 藤村 博之 氏

選者:法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村 博之(ふじむら ひろゆき)
専門は人的資源管理論など。厚生労働省中央最低賃金審議会会長なども務める。

同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。

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令和3年12月6日第3331号7面 掲載

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