【GoTo書店!!わたしの一冊】第34回『マスカレード・ホテル』東野 圭吾 著/大矢 博子

2021.09.23 【書評】
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価値観を認め合う難しさ

東野圭吾著、集英社文庫刊、836円(税込み)

 今月17日に、映画「マスカレード・ナイト」が公開された。一流ホテルで起きる事件を防ぐべく、警察とホテルスタッフが奮闘するミステリー映画である。一昨年に公開された「マスカレード・ホテル」に続くシリーズ第2弾で、主演は木村拓哉さんと長澤まさみさん。こうして名前を並べただけでキラビヤカだ……。

 原作は東野圭吾。このシリーズが面白いのは、〈異業種交流ミステリー〉という点にある。たとえば、第1作『マスカレード・ホテル』の粗筋はこうだ。

 東京都内で起きた3件の殺人事件。はじめは無関係と思われていたが、現場に残されたあるメッセージから同一犯による連続殺人事件と判断された。

 そのメッセージによると次の殺人の舞台は一流ホテル「ホテル・コルテシア」である公算が大きい。そこで何人かの刑事がホテルスタッフの振りをして潜入し、捜査と警備に当たることになった。

 フロントクラークに扮したのは新田刑事。ところが全身から刑事臭がダダ漏れ状態。もちろんスタッフとしてのマナーなど知る由もない。このままではとてもお客様の前には出せないと、ホテルスタッフの山岸が新田刑事をホテルマンとして教育するのだが……。

 事件の顛末はスリルと意外性に富んでとてもエキサイティングだが、それはちょっと横に置いておいて、目的の異なるふたりの関係に注目願いたい。

 ホテルスタッフはお客様の満足を至上とする。一方、刑事は人を疑うのが仕事だ。人に向き合うときの心構えが正反対なのである。

 素振りの怪しい客、備品盗難の疑いのある客、モンスタークレイマーといった厄介な客たちが次々とやって来る。刑事である新田とホテルスタッフである山岸の、捉え方や対応が異なるのが面白い。お客様の無茶な要求に対し、常識とルールを盾に反駁しようとする新田と、たとえ理不尽な要求であってもひたすら応えようとする山岸。当然、ふたりは反発し合う。

 もちろんそこはホテルのやり方に添うのだが、刑事ならではの新田の視点に山岸が驚かされることもある。一方、プロフェッショナルとしての山岸の行動に新田が感じ入る場面もある。

 異なる価値観の存在を認めること。自分の仕事が他者のそれより優先されるべきだという思い込みを捨てること。当たり前のようにみえて、自分の仕事に誇りを持っている人ほど難しいことだ。幾つかのトラブルを経るうちにふたりは少しずつ考えを改めていく。

 ホテルの裏側の描写も細やかで、情報小説としても読み応えたっぷり。スタッフの矜持とスペシャリストぶりには頭が下がった。この先、ホテルに泊まる際には、少し見方が変わりそうだ。

 ところで、第2弾の『マスカレード・ナイト』は500人が集まるパーティが捜査の舞台になる、という話だ。このご時世、そんなシーンの撮影は危険ではと思っていたのだが、そのパーティは仮面舞踏会、つまり全員マスク(仮面)を着けていた! ああよかった。でもそんな心配せずに映画を楽しめる日が早く来てほしいなあ。

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書評家 大矢 博子 氏

選者:書評家 大矢 博子

同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。

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令和3年9月27日第3322号7面 掲載

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