【GoTo書店!!わたしの一冊】第46回『黒牢城』米澤 穂信 著/大矢 博子

2021.12.16 【書評】
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黒田官兵衛の名推理

 毎年この季節になると雑誌などで特集されるのが、今年のミステリー小説のランキング企画だ。作家や文芸評論家などが投票で今年を代表するミステリーを選ぶもので、中でも歴史があるのが『週刊文春』の恒例企画「ミステリーベスト10」と、宝島社のムック『このミステリーがすごい!』である。本選びの参考にしているファンも多いのでは。

 それに老舗のミステリー専門誌、早川書房『ミステリマガジン』を加えた3誌すべてで今年の1位に選ばれたのが、米澤穂信の『黒牢城』だ。まさに折り紙付きの、今年を代表するミステリー小説といって良い。

 ミステリーなのだからもちろん事件が起きて、探偵役がその謎を解く話なのだが、面白いのは、その探偵役が戦国武将の黒田官兵衛なのである。

 天正6年、織田信長に謀反した荒木村重を翻意させるため、織田方の使者として黒田官兵衛が有岡城に派遣された。しかし村重は官兵衛の説得を拒否したどころか、官兵衛を拘束して1年もの間、土牢に閉じ込めた――というのは有名な話。米澤穂信はこの史実をもとに、籠城長引く有岡城内で起きた四つの事件の謎を、官兵衛が土牢にいながらにして解き明かす、という趣向を生み出した。

 ここで描かれる有岡城内の事件はフィクションだ。処分保留の人質が密室で殺された一件や、誰のものか分からぬ首級の中から大将首を探す話など、戦国時代ならではの謎解きが楽しめ、そのサプライズは本格ミステリーの醍醐味たっぷり。

 まず事件を調べるのが城主の荒木村重で、彼が集めた手がかりを土牢の官兵衛が聞き、なにがしかの示唆を与えるというのが定番の構成である。その姿はまるで刑事が名探偵に相談しているかのようで、歴史ものに馴染みのない読者でもすんなり世界に入っていけるようになっている。

 逆に、歴史好きにとってはフィクションが勝ち過ぎているように感じられるかもしれない。だが、ちょっとお待ちいただきたい。確かに事件は架空だが、この物語のポイントはなぜ村重と官兵衛なのか、なぜ舞台が有岡城なのかというところにある。この小説は、四つの架空の事件を解くミステリーにみえて、実は、なぜ村重は、まだ戦っている部下を残して有岡城を脱出したのかという歴史の謎を解いているのだ。

 長引く籠城の中で、戦況は移り変わる。あてにしていた毛利からの援軍は来ない。城主である村重は次第に追い詰められていく。そんな状況で、城内の民百姓や家臣たちは何を思っていたのか。村重をどうみていたのか。著者は記録に残らない〈人の思い〉を架空の事件に仮託した。そしてそれらを通して、領主とは何か、民とはどんな存在か、ひいては戦国時代とはどんな時代だったのかを、まったく新しい視点で描き出したのである。

 パズル性の高い本格ミステリーであるとともに骨太な歴史ミステリーでもある本書。広い支持を集めたのも当然の佳作である。謎解き好きにも歴史好きにもお薦めの一冊だ。年末年始、440年前の日本に心を飛ばしてみてはいかが?

(米澤穂信著、角川書店刊、1760円税込)

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書評家 大矢 博子 氏

選者:書評家 大矢 博子

同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。

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令和3年12月27日第3334号7面 掲載

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