【GoTo書店!!わたしの一冊】第7回『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』井上 マサキ・高橋 創 著/大矢 博子

2021.02.18 【書評】
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強奪した財宝にも課税!?

井上マサキ・高橋創著、ダイヤモンド社刊、1400円+税

 自分で選んだ仕事とはいえ、この時期ばかりはサラリーマンの皆さんが羨ましくなる。何がって、確定申告ですよ。個人事業主にとっては実に厄介な季節なのだ。

 だが給与所得者にも無関係ではない。副業はもちろん、相続や譲与などいきなりの収入があれば申告の対象。病気やケガで病院に掛かれば医療費控除でお金が戻ってくることもある。普段やりつけてないと、何が経費になるのか、所得や控除にはどんな種類があるのかというところから始めなくてはならない。いやあ、大変だ。

 それを意外な趣向で分かりやすく説明してくれるのが『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』である。サブタイトルは「日本の昔話で身につく税の基本」。著者のひとり、高橋創氏は税理士で、彼の事務所に昔話の登場人物が税金の相談にくるという設定だ。軽妙な文章に定評のあるライターの井上マサキが、その相談と回答を会話劇に仕立てた。

 第1章は「鶴の恩返し」。鶴が織った反物で利益を得た主人公が代官に申告を命じられた。だが経費がよく分からない。反物の原材料である糸は間違いなく経費だが、では鶴の健康を保つための食費は経費になるのか?

 答えは「ならない」とのこと。理由は本書で確かめられたい。

 だが主人公はがっかりする必要はない。別に経費になりそうなものがあるのだ。鶴は機を織るとき「この部屋を決して覗かないでください」といった。これがヒント。

 第2章の「桃太郎」はさらに面白い。桃太郎が鬼ヶ島から持ち帰った財宝に所得税は掛かるのかという話。鬼から強奪してきたわけで、暴力で得た利益に税金は掛かるのか?

 答えは「掛かる」。なんと税金は収入の基因となった行為が「適法であるかどうかを問わない」のだそうだ。ええっ、じゃあ振り込め詐欺犯も銀行強盗も確定申告しなくちゃいけないのか! 絶対しないだろうけど。

 ではそれは雑所得か一時所得か、というふうに話は進む。

 以降、「わらしべ長者」で譲渡税、「うば捨て山」で相続税、「笠地蔵」で譲与税、「文福茶釜」で減価償却、「浦島太郎」で固定資産税、「かちかち山」で医療費控除、「三年寝太郎」で扶養家族などなど、一話ごとにテーマを決めて税の基本が分かりやすく説明されている。これはアイディアの勝利だ。

 中にはミステリ仕立ての章もあれば、かぐや姫が月からリモート会議に割って入るなんて章もある。ユーチューバーの洋服代は経費になるかや、最近改正された税のシステムの情報など、「今」の話題も盛りだくさん。小難しい参考書ではなく、まずは読み物として楽しめるよう隅々まで工夫されている。とくに、竜宮城から帰ってきたら固定資産税の滞納により家が公売に掛けられていた浦島太郎には同情を禁じ得ない。

 確定申告が楽になるようなノウハウが載っているわけではない。そういう意味では決して実用書ではないが、税が一気に身近に感じられることは間違いなしだ。

 さて、桃太郎のきびだんごは経費になると思いますか?

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書評家 大矢 博子 氏

選者:書評家 大矢 博子(おおや ひろこ)

同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。

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令和3年2月22日第3294号7面 掲載
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