【自然災害時に知っておきたい企業の労務管理】第2節 雇用調整(2)

2020.03.14 【自然災害時に知っておきたい企業の労務管理】
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 以下の記事は、2011年6月に弊社より刊行された「災害時に知っておきたい労務管理の実務~震災に伴う休業・労働時間短縮・雇用調整~」(絶版)をそのまま掲載しております。
 東日本大震災から9年。大規模な自然災害に対して、企業の労務管理はどのように行うべきか、改めてご確認いただければと存じます。
 ・第1節 労働時間管理(1)
 ・第1節 労働時間管理(2)
 ・第2節 雇用調整(1)
 ・第2節 雇用調整(2)
 ・第3節 行政による保護施策

4.採用内定取消し

 内定の際、採用内定誓約書等に取消事由を記載し、解雇権を留保するケースが一般的です(始期付解雇権留保付雇用契約)。しかし、留保された解雇権を行使(内定取消し)する際には、留保の趣旨、目的に照らして合理的で社会通念上相当な理由が必要とされます。

 判例の代表例は、「大日本印刷事件」です。

大日本印刷事件(最判昭54・7・20)

事案の概要

 卒業予定者は、5項目の契約事項に反したときは採用が取り消される旨記載された会社所定の誓約書を提出していました。しかし、会社は採用に当たり「グルーミー」な印象を受けた点を危惧し、理由を示さずに内定取消しを通知しました。

判決の要旨

 会社は採用内定通知の外は契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかったことから、求人募集に対する卒業予定者の応募は労働契約の申込みであり、企業の内定通知はその承諾であり、これにより就労の始期を大学卒業直後とし、誓約書記載の事由に基づく解雇権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
 留保した解雇権に基づく内定取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として内定を取り消すことが、合理的で社会通念上相当として是認できるものに限られる。会社側敗訴。

 内定を取り消す場合、事業主はハローワーク・学校長に通知する義務を負います(職安法施行規則第35条)。

 厚生労働大臣は、悪質な場合、企業名を公表します(職安則施行規則第17条の4)。

 「新規学校卒業者の採用に関する指針」等にも注意が必要です。

① 事業主は、採用内定を取り消さないものとする。
② 事業主は、内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を払う。
③ やむを得ない事情により、採用内定と理系または入職時期繰下げを検討する場合には、法所定の義務を果たすと同時に、生徒から保障等の要求には誠意を持って対応する。

5.退職勧奨

 従業員の自由な意思決定を妨げるような行き過ぎた退職勧奨は、違法な権利侵害として損害賠償等の対象になります。判例の代表例は、「下関商業高校事件」です。

下関商業高校事件(最判昭55・7・10)

事案の概要

 市教育委員会は、定年前に、退職勧奨基準年齢(57歳)に達した教員を対象として、退職を勧奨しました。教員がこれに応じなかったため、11~13回にわたり勧奨を繰り返し、「夏休みですから、毎日来てもらって勧奨しましょう」などと発言したほか研究物の提出等も求めました。

判決の要旨

 退職勧奨は、任命権者がその人事権に基づき、自発的な退職意思の形成を慫慂するための説得行為であって、被勧奨者は何らの拘束なしに自由にその意思を決定しうる。ことさらに多数回あるいは長期にわたり勧奨が行われることは、正常な交渉が積み重ねられているのでない限り、不当に退職を強要する結果となる可能性が強い。市教委側敗訴。

6.派遣・請負事業の取扱い

 派遣契約(対派遣先)の解除が「当然に派遣労働契約(対派遣労働者)の終了事由になる」と解することはできません。派遣元は、雇用主として負うべき責任を果たす必要があります。

 判例としては、「社団法人キャリアセンター中国事件」等が挙げられます。

社団法人キャリアセンター中国事件(広島地判平21・11・2)

事案の概要

 派遣元は無料の派遣事業を行っていて、通訳・翻訳を業務とする登録型派遣労働者を雇用していました。派遣先から業務縮小を理由として契約打ち切りの連絡があったため、派遣元は本件派遣労働契約を中途解約しました。

判決の要旨

 事業者間の取引契約である派遣契約と、派遣労働契約とは別個の契約であり、派遣契約の終了が当然に派遣労働契約の終了事由となると解することは相当でない。登録型派遣においては、派遣先の業務終了を契約の終了事由とする黙示の合意が成立していたと解する余地がないでもない。しかし、合意の成立の認定は慎重かつ厳格になすべきである。派遣契約は期間の定めある契約であり、契約解消はやむを得ない事由がある場合に限り許されるものである。やむを得ない事由はなく、期間満了までの賃金を支払う義務がある。派遣会社側敗訴。

 派遣先から契約のキャンセル(途中解除)を相談された場合、派遣元は派遣先・元指針の該当規定に基づき、善後策を講ずべきでしょう。

派遣先の講ずべき措置に関する指針(抜粋)

① 契約締結時に解除時の賠償措置を規定
② 派遣先による就業機会の確保
③ 賠償(休業手当・解雇予告相当額以上。賠償規定がない場合の支払い義務も規定)

派遣元の講ずべき措置に関する指針(抜粋)

① 契約締結時に解除時の賠償措置を規定
② 派遣先と連携して再派遣先を確保
③ 派遣労働者に対する休業手当、解雇予告手当等の支払い

(続く)

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