【自然災害時に知っておきたい企業の労務管理】第2節 雇用調整(1)

2020.03.13 【自然災害時に知っておきたい企業の労務管理】
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 以下の記事は、2011年6月に弊社より刊行された「災害時に知っておきたい労務管理の実務~震災に伴う休業・労働時間短縮・雇用調整~」(絶版)をそのまま掲載しております。
 東日本大震災から9年。大規模な自然災害に対して、企業の労務管理はどのように行うべきか、改めてご確認いただければと存じます。
 ・第1節 労働時間管理(1)
 ・第1節 労働時間管理(2)
 ・第2節 雇用調整(1)
 ・第2節 雇用調整(2)
 ・第3節 行政による保護施策

1.基本的な考え方

 解雇・雇止め等に関しては、労働基準法、労働契約法等に関連規定が設けられています。

 そのうち、震災等による特例を明記しているのは、労基法第19条、第20条のみです。第19条では、「業務上の傷病による休業期間およびその後30日間並びに産前産後休業期間中およびその後30日間」の解雇を禁じていますが、「天災地変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合は、この限りではない(解雇制限の除外)」と規定しています。第20条は、「解雇前30日前の予告または平均賃金30日分の予告手当の支払い」を義務付けていますが、こちらも「天災地変により事業の継続が不可能となった場合、予告不要」という扱いとなっています。

 今回の地震は、当然、「天災地変」に含まれますが、「直接的な被害により施設が被害を受け、事業の大部分の継続が不可能になったとき」のみ、対象となります。施設被害なしで売上大幅減の場合などは、原則として適用されないので、注意が必要です。

 一部の支社・営業所のみ被害を受けたケースの扱いは、「企業が数カ所に事業場を有する場合において、1事業場が経営不能に陥ったときも(予告除外の)認定をできる。配置換えにより回避可能という考え方もあるが、適正人員配置の観点から、他の事業場で被災事業場の労働者全員を収容することまで法律は要請していない」と解されています。しかし、実務的には、転勤ありの総合職社員等については、一定の配慮が必要でしょう。

 上記以外のケースでは、たとえ震災が理由であっても、自動的に解雇・雇止め等の措置に合理性があると認められるわけではありません。基本的には、労働契約法の規定や過去の裁判例等を踏まえたうえで、その可否を検討することになります(平23・4・8基発0408第2号「東日本大震災に伴う解雇、雇止め等に対する対応について」参照)。

2.解雇

正社員の解雇

 まず、正社員等の解雇については、労働契約法第16条により、「合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は無効」となります(いわゆる解雇権濫用法理)。

 解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものは、使用者側に主張立証責任があると解されているので、裁判になれば、基本的には使用者側が解雇を正当化する証拠等を提出しなければなりません。

 労働契約法の解釈例規(平20・1・23基発第0123004号)では、「日本食塩製造事件」を例示しています。

日本食塩製造事件(最判昭50・4・25)

事案の概要

 労使の和解条件の中に、争議行為に行き過ぎのあった従業員の退職が含まれていました。労働組合は退職に合意しない従業員を除名し、会社側もユニオン・ショップ協定に基づき解雇しました。

判決の要旨

 使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となると解するのが相当である。
 使用者が行う解雇はユニオン・ショップ協定によって解雇義務が発生している場合に限り是認することができるのであり、除名が無効な場合には、他に解雇の合理性を裏付ける特段の理由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。会社側敗訴。

有期社員の解雇

 労働契約法第17条では、「期間途中の解雇はやむを得ない事由がある場合」でなければ無効と規定しています。「やむを得ない事由がある」と認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当」と認められる場合よりもさらに狭いと解されています。つまり、期間契約社員の途中解雇は、非常に難しいという結論になります。

 こちらについても、「やむを得ない事由」があるという立証責任は、使用者側が負います。

 判例では、「安川電機八幡工場事件」が代表例です。

安川電機八幡工場事件(福岡地小倉支判平16・5・11)

事案の概要

 会社は、3カ月契約を反復更新する形で14~17年にわたりパートタイマーを継続雇用していましたが、業務受注量の減少を理由に、3カ月の期間途中に解雇を通告しました。

判決の要旨

 期間の定めのある労働契約は、やむを得ない事由がある場合に限って期間内解除が許される。本件解雇によって雇用期間満了時までに削減される労務関係費は、事業経費のわずかな部分であって、企業活動に客観的に重大な影響を及ぼすものとはいいがたく、パート労働者であるからといって、期間満了を待たずに整理解雇しなければならないほどのやむを得ない事由があったとは認められない。したがって、本件解雇は無効である。会社側敗訴。

整理解雇

 整理解雇については、いわゆる「4要件※」が有名です。最近では、4要件は法律要件ではなく「考慮要素(重要な要素の例示)」であるととらえ、必ずしも全て満たさなくても解雇可能とする判例も増えています。

※次の4要件をいいます。

① 人員削減の必要性
② 解雇回避努力
③ 対象者選定の合理性
④ 手続きの妥当性

 近来の傾向に沿う判例としては、「ワキタ事件」が挙げられます。

ワキタ事件(大阪地判平12・12・1)

事案の概要

 会社は、パートタイマーとして英文タイピストを雇用していましたが、本人希望に基づき期間の定めのない雇用契約に切り替えました。しかし、約15年後、余剰人員となったことを理由に解雇を言い渡しました。

判決の要旨

 余剰人員となったというだけで解雇が可能なわけではなく、これが解雇権の行使として社会通念に沿う合理的なものであるかどうかの判断を要し、その判断のためには、人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力の履践、説明義務の履践などは考慮要素として重要なものというべきである。会社は、当人に対し配置転換の提示をしていないし、退職勧奨も行っていないのであって、いわゆるリストラを実施中であることを考慮しても、解雇回避の努力を尽くしたとはいいがたい。本件解雇は、解雇権の濫用として無効である。会社側敗訴。

3.雇止め

 契約期間を定めた労働契約は、期間の満了と同時に終了するのが原則で、雇止めは解雇と異なります。しかし、契約が反復更新され、期間の定めのない雇用に類似する状況となったり、契約更新を期待する合理的な理由がある場合等は、解雇権濫用法理の類推適用により、雇止め無効となるケースがあります。

 代表的な判例としては、「東芝柳町工場事件」と「日立メディコ事件」が挙げられます。

東芝柳町工場事件(最判昭49・7・22)

事案の概要

 本工と同様の職務に従事する期間臨時工は、契約期間2カ月ですが、自ら希望して退職する以外、長期にわたって継続雇用されてきました。会社も期間満了のつど、新契約締結の手続きを取っていませんでしたが、業績不振を理由に雇止めに踏み切りました。

判決の要旨

 本件労働契約では、期間は一応2カ月と定められていたが、いずれかから特別の意思表示がなければ当然更新されるべき意思であったものと解するのが相当であり、したがって、本件労働契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわねばならず、雇止めの効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推すべきである。会社側敗訴。

日立メディコ事件(最判昭61・12・4)

事案の概要

 比較的軽易な作業に従事していた臨時員について、会社は契約満了の1週間前に本人の意思を確認し、労働契約書を作成していました。会社は人員削減の必要が生じたため、反復更新を5回繰り返していた臨時員を雇止めとしました。

判決の要旨

 5回更新の事実をもって直ちに期間の定めのない契約に転化したり、期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできない。臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続きで締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めを判断すべき基準は、いわゆる本工とはおのずから合理的な差異があるべきである。労働者側敗訴。

(続く)

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