テレワークと事業場外みなし労働時間制/弁護士 川久保 皆実

2018.04.30 【弁護士による労務エッセー】
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 働き方改革の柱の一つとして近年注目を集めているテレワーク。

 その定義は、「労働者が情報通信技術(ICT)を利用して行う事業場外勤務」とされており、いわゆる在宅勤務だけでなく、サテライトオフィス勤務や、外出先でのモバイルワークもテレワークに含まれます。

 テレワークはまさに事業場外で行われることから、「事業場外みなし労働時間制を適用したい」という企業も少なくないと思われます。

そこで、今回は、「テレワークの労働者について事業場外みなし労働時間制を適用するのって実際どうなの?」という点についてお話したいと思います。

「労働時間を算定しがたいとき」とは

 労働基準法第38条の2には、「労働者が…事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき」に事業場外みなし労働時間制を適用することができると規定されています。そして、この「労働時間を算定し難い」と言えるかどうかが、実務上よく問題になります。

 それでは、テレワークにおいて「労働時間を算定し難い」場合とは、どのような場合を言うのでしょうか。

 この点について、厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日策定)には、「テレワークにおいて…労働時間を算定することが困難であるというためには、以下の要件をいずれも満たす必要がある」と明記されています。

(1) 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
(2) 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

 これだけだとかなり抽象的で分かりづらいので、ガイドラインの内容をもとに、それぞれの要件について詳しく見ていきましょう。

 まず、(1)の要件についてのガイドラインの説明内容は以下の通りです。

 「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」とは、情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であることを指す。なお、この使用者の指示には黙示の指示を含む。
 また、「使用者の指示に即応する義務がない状態」とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態にはないことを指す。例えば、回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められている場合、会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合等は「使用者の指示に即応する義務がない」場合に当たる。

 インターネット回線につながったパソコンや携帯電話が労働者の手元にあり、いつでも連絡をとろうと思えばとれるという状態であるという場合、単にそれだけで要件(1)の該当性が否定されるわけではありません。

 ガイドラインは、更に踏み込んで、「情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務」があるかどうかで判断することを求めています。

 例えば、上司からテレワーク中の部下に電話をかけたが繋がらなかったという場合、「繋がらないのであれば仕方ない」となるのであれば、「即応する義務」がないと言えます。他方、電話にすぐに出なかったことについて上司が部下を咎めるような場合には「即応する義務」があると言え、要件(1)の該当性は否定されます。

 また、サテライトオフィス勤務等で、常時回線が接続されていたり、在席状況がリアルタイムに把握できたりするような場合、テレワーク中の部下が離席していることについて、上司が「あれ、○○さんどこに行ったの?」と逐一確認するような場合には、「即応する義務」があるという方向に認定されやすくなるでしょう。

 次に、(2)の要件についてのガイドラインの説明内容は以下の通りです。

 「具体的な指示」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれない。

 例えば、「今月末の商談で使う資料なので、今週中までにドラフトがほしい」といった程度の指示をすることは、要件(2)の「具体的な指示」には当たりません。

 以上をまとめると、テレワークをする労働者について、事業場外みなし労働時間制を適用する場合には、(1)上司からの連絡に対して即応する義務を課さないこと、(2)上司からの指示は業務の目的や期限等の基本的事項にとどめることの2点に注意する必要があると言えます。

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