【主張】実質賃下げは不可抗力か
もはや悪夢としか言いようがない。毎月勤労統計調査の速報によると、今年5月の賃金(現金給与総額)は名目で前年同月比1.0%増、実質では2.9%減となった。政労使で賃上げに取り組んだ効果は限定的で、平均賃金の伸びは物価上昇にまったく追い付いていない。未だに“実質賃下げ”状態が続いている。
毎勤調査における賃上げの効果は、4月分に集中するわけではない。先行する大企業の動向をみて中堅・中小企業が動き出すためか、所定内給与の前年同月比(%)は例年、5月が4月を上回る。たとえば過去3年間の動き(4月→5月)をみると、令和4年は1.0%増→1.1%増、5年は0.9%増→1.7%増、6年は1.8%増→2.1%増となっている。
ところが今年5月の速報は、4月と同じく2.1%増となった。中堅・中小で前のめりに賃金改定に踏み切る傾向があったのか、あるいは賃上げ3年目に至って息切れがみられたのか――。
労使の賃上げ集計をみる限り、多くの企業が今年もベースアップないし初任給引上げに伴う処遇改善に踏み切ったのは間違いない。経団連の大手企業集計(5月22日公表)は前年に続き1万9000円を超え、中小企業集計(6月20日公表)も1万2000円弱となり、前年同期を1400円上回った。連合の最終集計(7月1日現在)も組合員296万人の加重平均で1万6000円を超えている。
仮に連合の結果を労働力調査に当てはめれば、非正規を含む雇用者6174万人のうち、5%弱の労働者の所定内が平均5.25%伸びたことになる。前年の物価上昇が3%程度だったとすれば、この層では実質賃金も1%以上伸びたとみなせよう。ただし、ここには定期昇給分あるいは賃金構造維持分が含まれており、連合の集計による純粋な改善分=いわゆるベアは3.70%に留まる。この半年間の消費者物価指数(総合)の伸びとほぼ変わらない。
過去3年間の結果からも分かるように、所定内の2.1%増は決して低くない。賃金引上げのノルム定着に向け、取組みを続けるしかない。