【主張】定昇で物価上昇は補えず

2024.02.15 【主張】
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 定期昇給込みなのか、ベースアップなのかということが、明確になっていないところがある――鉄鋼・造船・非鉄金属などの労働組合でつくる基幹労連の津村正男中央執行委員長は、2月5日の会見の最後にそう語った。記者へのお願いとして切り出したのは、企業各社の賃上げ表明や、労働組合の要求基準に関する報道への懸念。賃上げ機運のなかで引上げ率の数字がクローズアップされる反面、前提条件が曖昧にされている傾向は否めない。

 実際、定昇込みか否かで額・率には少なからず差が生じるし、企業が自ら発信するケースにおいては、賞与を含む年収ベースの引上げ率や、若年層のみの引上げ率などが混在している。しかし、「物価上昇に負けない賃上げ」を実現するうえで問題になるのは、あくまでも定昇を含まないベースアップの多寡であり、全体平均の引上げ率に他ならない。

 定期昇給とは本来、内転原資と説明される。組織には人材の出入りがあるため、処遇のバランスは相応に保たれるという考え方だ。たとえば定年を迎えて賃金の高い層が辞めていく一方、代わりに入ってくる新卒者の賃金は安い。両者の差額を定昇の原資に充てれば、労務費全体のパイは変わらない。年齢昇給だろうが、評価結果を反映した査定昇給だろうが、賃金制度に基づく昇給とは本来、内転原資で賄うのが基本になる。

 とはいえ、そうした入職・離職のサイクルを回していくには、新卒定期採用が前提になる。多くの中小企業にとっては、その意味で定昇制度を理念どおり運用するのは難しい。実務的には過去の賃上げ実績も踏まえつつ、ベア分の上乗せをめざしていくことになろう。

 2023年平均の実質賃金は、速報で前年比2.5%のマイナスとなった(毎月勤労統計調査・令和5年分結果速報)。賞与や所定外給与を含む現金給与総額の伸びは1.2%に留まり、物価上昇分をカバーするには到底及ばなかった。昨年の賃上げが3%を超えたといっても、そのすべてが物価上昇分を補う役割を担ったわけではない。

令和6年2月19日第3437号2面 掲載

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