【主張】ジョブ型移行は運用が鍵
岸田文雄内閣総理大臣は5月9日、自ら議長を務める新しい資本主義実現会議の後、今夏にジョブ型人事指針を公表すると語った。多数の企業の事例を集め、導入目的や雇用管理、導入プロセスについて具体的に明らかにするという。昨年、三位一体の労働市場改革の指針で「多様なモデルを示す」とされていたものが、ようやく形として示される。
指針の策定作業を進める同会議の分科会では、すでに大企業20社に対してヒアリングを実施した。ホームページでは各社が提出したプレゼン資料に加え、議事要旨も随時、公開している。委員とのやりとりを通じて、制度の枠組みからはうかがえない、導入後の課題までみえてくるのが興味深い。
ヒアリングを終えた事例のなかには、職務給と職能給の併用型を採っていたり、明らかに職務=ポジションではなく個人を等級格付けしている事例もみられる。多くの企業では非管理職層は対象にしていないし、新卒者を職種限定採用しているわけでもない。こうした制度の普及が政府の掲げる労働市場改革をどこまで促し、持続的で構造的な賃上げにつなげられるのかは、未知数だ。
ただ、導入から間もない企業のケースからは、自律的なキャリア開発意識の醸成に苦戦する実情もみえてくる。社内の現状を問われ、「何をしたらいいか分からず、もやもやしている社員が多い」、「まだまだ受け身がマジョリティーを占めているのは否めない」などと答える場面も――。すべての人事制度改革と同様、あるいはそれ以上に、制度理念の浸透は導入後の運用にかかってこよう。
一方、人事院では同じ5月9日、国家公務員の人事管理のあり方を議論している人事行政諮問会議が、川本裕子総裁に中間報告を手交した。国家公務員の人材確保が危機に直面していると指摘し、今後の方向性として「職務をベースとした人事制度・運用に基づくマネジメントと報酬水準」などを提案している。ジョブ型人事の最も著名な失敗例に対し、どんな改定案が示されるのかも見逃せない。