【本棚を探索】第8回『若手育成の教科書 サイバーエージェント式 人が育つ「選抜メソッド」』曽山 哲人著/倉重 公太朗

2022.03.03 【書評】
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決断や失敗の4段階経て

 若手が育たない、そんな想いを抱えている経営者、人事担当者は多いだろう。さらにコロナ禍において、新人教育がより一層難しくなっているとの現実がある。そんな方々にご参照頂きたいのが本書である。

 どの企業も「若手が育たない問題」で悩んでいるが、同書によれば、若手育成において一番大切なのは自信を持たせることで、「成長したい=自信が欲しい」ということである。企業ができるのは、育つ仕組み、すなわち若手が自分で成長できる自走環境を整えることであると説く。

 具体的には、自走サイクルとして①抜擢、②決断、③失敗、④学習の4プロセスを意識する。

 まず、①抜擢では、「いわせる」。小さな一歩でも良い、本人がやりたい、担当できることについて自分で意思表明や宣言をしてもらう。上司から命じてしまうとそれは「やらされ仕事」になってしまう。本人が宣言したことについて、たとえば、「業界研究責任者」などでも良いので「抜擢」する。その際は、「あなたはもっと成長できる」、「君ならできる」と期待を明確に示すことも重要となる。

 次に、②決断。決断経験の差が個人の成果と成長に大きな差を生み、決断経験がある人ほど、リモートワークでもスピードが増し、自由時間が増えるため、とにかく早く決断する経験を積ませることが重要だ。「やらされ仕事」ばかりしていると、仕事の意義が感じられないばかりか、いわれたこと以外はやらない悪循環に陥ってしまう。また、やらされ仕事では、仕事の飽きも来てしまうため早期離職も招きやすい。責任範囲を明確にし、その範囲では上司の決裁などを不要として自分で決断する、という経験を積ませることこそ重要である――と同書は指南する。

 そして、③失敗。上司は「失敗はするもの」との前提を持ち、成長のために必要なプロセスと捉えるべきで減点方式は採らない。なぜなら抜擢した側がまず責任を取るものであり、抜擢された者は責任を取るのではなく、学習することが重要だからだ。そして、「失敗→認識→内省」のサイクルで失敗を経験値へと転換できれば、若手成長のリターンは大きい。

 最後に、④学習。課題を発見して次の抜擢に備えることである。失敗を単に失敗で終わらせず、成長につなげるためには言語化が必要だ。その経験を意味付け、未来にとってどんな意味があるか考えさせる、今後はどうしたいかを自分でいわせる――などが重要である。そこで、他人に話したくなる目標を語れれば、今後は本人が勝手に自走していくであろう。

 以上のプロセスは、実は若手のみならず、中高年のマンネリ社員にも当てはまる。抜擢されず、モチベーションの低い社員となってしまうケースもある。すべての社員に「抜擢」をする“抜擢カルチャー”が社内に浸透すれば、本人の強みが伸びる仕事を生み、大きな成果となる。それにより、「自分はなぜこの会社にいるのか」という存在意義(パーパス)を感じられる。

 これらのことは、今の日本型雇用に最も不足している観点だ。組織の停滞、若手の伸び悩み、中高年のモチベーション不足に悩む方々にオススメしたい。

(曽山哲人著、ダイヤモンド社刊、1760円税込)

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弁護士 倉重 公太朗 氏

選者:弁護士 倉重 公太朗

書店の本棚にある至極の一冊は…。同欄では選者である濱口桂一郎さん、三宅香帆さん、大矢博子さん、月替りのスペシャルゲスト――が毎週おすすめの書籍を紹介します。

令和4年3月7日第3343号7面 掲載

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