【本棚を探索】第20回『日本人の承認欲求 テレワークがさらした深層』太田 肇 著/石山 恒貴

2022.06.02 【書評】
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カギはコスモポリタン

 同志社大学の太田肇教授が一連の著書で述べてきた日本人の承認欲求に関する集大成ともいうべき一冊だ。コロナ禍のテレワークという、従来は想像もできなかった状況における日本人の反応で、承認欲求の深層がいみじくもさらけだされた。本書は、その深層を克明に描き、分かりにくい承認欲求への解像度を飛躍的に高めている。

 承認欲求とは、人から認められたいという基本的な欲求のひとつだとされる。しかしこうした定義は抽象的である。本書によれば、実は自分でも分かっていない、無意識で屈折した承認欲求もあるという。日常的にメンツにこだわって意地になり不合理な言動をしてしまうことなどは、こうした屈折した承認欲求の現れだ。そこで、本書では承認欲求の定義には厳密にこだわらない方がむしろ望ましいとしている。

 この分かりにくい承認欲求の姿は、コロナ禍のテレワークの浸透によって明確に示されることになった。テレワークの当初は、その良い面を評価する個人が多かったという。たとえば満員電車で通勤しなくて良い、上司の目を気にしなくて良い、などの「気楽」さが良い面だ。これは、「承認欲求の呪縛」からの解放でもあったという。ところがテレワーク生活が長くなるにつれ、孤独を感じるなどのマイナス面を訴える人が多くなった。リモート飲み会がすぐに廃れてしまったことからも分かるように、テレワークでは直接コミュニケーションができず、日常のちょっとした他者からの承認が得られにくくなってしまったからだと本書は分析する。

 つまり、「気楽さ」は「物足りなさ」と表裏一体である。会社から「離れたい」という承認欲求の呪縛から逃れたいという気持ちは、承認欲求を満たすために会社に「行きたい」という気持ちとも表裏一体なのである。このような欲求は上司世代だけでなく、若手のZ世代にも存在する。Z世代も周囲に反発を買わないように留意しながら、自分をアピールする「チラ見せ」にこだわりがあるという。

 では、どうすれば良いのか。承認欲求が必ずしも悪いわけではない。承認欲求が満たされると、人はやる気になり、自己効力感も向上する。問題は、日本では会社という共同体が同質的で濃密すぎ、その閉鎖空間だけで承認を求めようとすることだ。そこで、テレワークをきっかけにして、会社という共同体でだけでなく、個人がさまざまな外部(副業、企業、コワーキングスペース、アルムナイなど)とつながり、コスモポリタンとして承認を得ることを提案する。

 本書の最大の特徴は、屈折した二面性を持ち、分かりにくい日本人の承認欲求の姿を、テレワークによって鮮やかに描き出したことだ。承認を求める自分の姿を恥ずかしく感じることもあり、承認欲求を直視することを、我われは避けてしまうのかもしれない。しかし、本書のような解像度の高さで承認欲求を直視すれば、むしろ我われはその呪縛に縛られ過ぎず、明るく開放的に承認を求めることができるようになるのではないだろうか。

(太田 肇 著、新潮新書刊、836円税込)

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法政大学大学院
政策創造研究科 教授
石山 恒貴 氏

選者:法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴
研究領域は越境学習、キャリア開発など。著書に『越境学習入門』『日本企業のタレントマネジメント』など多数。

 書店の本棚にある至極の一冊は…。同欄では選者である濱口桂一郎さん、三宅香帆さん、大矢博子さん、月替りのスペシャルゲスト――が毎週おすすめの書籍を紹介します。

令和4年6月6日第3355号7面 掲載

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