【本棚を探索】第4回『御鑓拝借 酔いどれ小籐次留書(一)』佐伯 泰英 著/三遊亭 白鳥

2022.02.03 【書評】
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冴えぬオヤジの必殺剣!

 59歳の落語家で、古典落語は全くやらず、もっぱら自分で一から噺を作る「創作落語」のみを高座にかけている。

 普通、書評というのは『この本を読んで書いてください』と依頼が来るものだが、今回は「お好きな本を書評してください」と嬉しい依頼。夜はテレビをまったく観ず、ライトノベルからハードボイルド、時代物までありとあらゆる分野の本を読んでいる。この新聞をご覧の読者さんには、同年代の方々が多いはず。なので私の愛読書『酔いどれ小籐次留書』シリーズから、第1作目の『御鑓拝借』を紹介したい。時代劇作家・佐伯泰英先生の名作シリーズなのでご存知の方も多いと思うが、あえてお薦めしたい!俺はもう4回読み返した。

 主人公は、赤目小籐次49歳で、豊後国森藩江戸下屋敷厩番。給金は商家の女中さんより少なく、毎日虫籠などを作る内職暮らし。見た目は身長153センチ、禿げ上がった額に大目玉、団子鼻、両の耳は大きい。そのうえ大酒飲み。もちろん独身で、一言でいえばダメオヤジなのだ。

 この冴えないオヤジが、主君である豊後国森藩の旧主・久留島通嘉(くるしま みちひろ)が城中で受けた無念をたった一人で晴らすのである。

 なんと小籐次は、同じ厩番であった親父から「来島水軍流正剣十手・脇剣七手」を5歳から叩き込まれていた。来島水軍流とは、かつて瀬戸内を暴れ回った村上水軍の末裔にだけ伝わる一子相伝の必殺剣のこと。荒波の船上での戦闘を想定し、重心は低く、刀だけではなく竿までも武器にする。この技を、小さな頃から鬼の親父に、それこそ死んでも良いとばかりにしごかれて叩き込まれていた。

 だが、その技を持っていると誰にいうこともなく、酒を飲むことだけを楽しみに地味に暮らしていた。

 そんな折り、ひょんなことから大恩のある気弱な主君が、城中で4人の大名から辱めを受けたことを知って脱藩、大名行列の御鑓を奪いに戦いを挑む。死闘の連続。冴えないおじさんの俺は拍手喝采だ。

 本書は、ただの剣豪小説ではない。偶然箱根で危機を助けた江戸芝口橋紙問屋の久慈屋一行との出会いが、その後の小籐次に大きな変化を与える。

 武士の世界しか知らなかった小籐次は、江戸の町人や貧乏長屋の住人など、さまざまな職人と触れ合っていき、本当の幸せとは何かを知っていく。49歳おじさんの第2の青春物語だ。もちろん恋噺も。それも羨ましい限りのね。

 江戸時代は、みんなが助け合って必死に生きていたということも分かる。古典落語を知らない俺だが、巻頭にある「江戸仔細地図」を眺めれば、あっという間に江戸時代にタイムスリップできる。

 小籐次の必殺剣が江戸の悪を切れば、明るい未来がやって来る。こんなコロナ禍だからこそ、是非読んでスカッとしてもらいたい。

 ページをめくりながら、常温の日本酒をチビリとやるのが、三遊亭白鳥お薦めの読み方だ。

(佐伯泰英著、文春文庫刊、税込792円)

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落語家 三遊亭 白鳥 氏

選者:落語家 三遊亭 白鳥(さんゆうてい はくちょう)
87年・三遊亭圓丈に入門。01年・真打ち昇進。著書に『ギンギラ★落語ボーイ』(論創社)、『ジョニーとマーガレット スーパー恋ものがたり』(講談社)など。

書店の本棚にある至極の一冊は…。同欄では選者である濱口桂一郎さん、三宅香帆さん、大矢博子さん、月替りのスペシャルゲスト――が毎週おすすめの書籍を紹介します。

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令和4年2月7日第3339号7面 掲載

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