【書方箋 この本、効キマス】第56回 『盲目の時計職人 自然淘汰は偶然か?』 リチャード・ドーキンス 著/三遊亭 楽麻呂

2024.03.07 【書評】
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40年前の不気味な予想

 テレビドラマ『不適切にもほどがある!』が大人気だ。それに触発されてあの頃の書籍を紹介したいと思い立った。そこで選んだのが本書である。英国での初版の刊行は1986年。昭和61年だ。生物は遺伝子の乗り物に過ぎないという衝撃的な言葉で世界に強烈な印象を与えた『利己的な遺伝子』から数えて3作目になるダーウィン進化論の著作である。それは20世紀後半に上梓されたにもかかわらず未だに光彩を放っている。自分自身、混沌とした今だからこそもう一度進化論に目を向け自然に対する謙虚さを養わなければならないと思った。

 今でも、一部では進化論に対する風当たりが強い。進化論に対する反対勢力は、ドーキンスに言わせると3種類に分類される。まずは宗教的な理由から進化そのものを真実ではないと思いたい人たち、またダーウィン説をそのメカニズムゆえに気に食わないと感じる人たち、そしてマスメディア。本書ではそれらの人々に果敢に反論し立ち向かっている。とにかく語り口が熱い。口角泡を飛ばしながら迸る情熱をたぎらせて熱弁する筆者の顔が、目前に迫ってくる感じだ。

 何を言いたいのか?まずは我われヒトをはじめとする生物には製作者もデザイナーもいないということ、そして進化のメカニズムは突然変異と累積的自然淘汰であること、この2つである。

 でも、誰かの意志や意図がなくて現生の生物たちのような複雑で精巧なものが出来上がるなんてことがあり得るのだろうか?あり得るのだ。筆者は第3章で懇切丁寧に読者にその方法を示してくれる。「バイオモルフ」という仮想の生物をつくり上げてコンピューターによるシミュレーションを実行してみる。するとどうであろう、ごく単純な出発点からまったく単純な規則に則って進んでいくと驚愕するほどの多様性と複雑性を持った生物に行き着く。そこには何ら神秘的なものは介在しない。ふんだんに添えてある図もとても分かりやすく、これだけでも一度ご覧いただきたいものである。もちろんそれ以降の進化の仕組みにも広く深く説明を尽くしている。ダーウィニズムの最良の書ではなかろうか。

 最後にもう1点だけ触れておきたい点がある。初読時にはまったく心に引っ掛からなかったが今回再読し気になったところだ。第6章でDNAは地球上で唯一の遺伝子ではなくそれ以前に無機的な複製子が存在していて、何らかの理由でそれが有機的であるDNAに入れ替わったのではないかと、つまり進化したのではないかという仮説を披露している。それだけでも斬新だが、これで話は終わりではない。何といずれDNAは無機的な人工知能が獲得した複製子に取って代わられるのではないかと予想している。つまり人工知能が天下を取るということだ。今だったらともかく約40年も前の予想だ!その慧眼には目を見張る。

 しかし、当時としてはSF的だったものが今となっては全否定もできず何となく不気味に思えてくる。この点だけは筆者の予測が当たらないことを祈るばかりである。

(リチャード・ドーキンス 著、中島 康裕ら 訳、早川書房 刊、税込3300円)

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落語家 三遊亭 楽麻呂 氏

選者:落語家 三遊亭 楽麻呂(さんゆうてい らくまろ)
1963年、千葉県生まれ。82年に五代目三遊亭円楽に入門。85年に二ツ目に昇進し、91年に真打ち昇進。現在は五代目円楽一門会の事務局長を務める。

 レギュラー選者3人と、月替りのスペシャルゲストが毎週、書籍を1冊紹介します。“学び直し”や“リフレッシュ”にどうぞ。

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令和6年3月11日第3440号7面 掲載

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