【助成金の解説】令和7年度版「賃上げ」支援助成金パッケージ/岡 佳伸

2025.06.03 【助成金の解説】
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 近年の物価上昇や人手不足への対応として、「賃上げ」は企業経営において避けて通れないテーマとなっています。

 令和7年度の厚生労働省の「「賃上げ」支援助成金パッケージ」では、こうした企業の取組みを後押しするため、複数の助成金制度を組み合わせた支援策が拡充されました。

 本稿では、中小企業から大企業まで幅広く活用できる賃上げ関連助成金を、制度の概要や活用例とともに詳しく解説します。

1.業務改善助成金:設備投資とセットで賃上げを支援

「業務改善助成金」は、中小企業が事業場内最低賃金を引き上げた上で、生産性向上に資する設備投資等を実施した場合に助成される制度です。

 たとえば、事業場内最低賃金を45円引き上げた上で設備導入を行った場合、最大100万円の助成が受けられます。

 コースは30円から90円までの引上げ幅に応じて設定されており、一事業主当たり最大600万円までの助成が可能です。

 なお、助成を受けるには「交付決定後に設備投資を実施する」ことが必須条件となります。なお、賃上げは交付申請書提出以降決められた期限までに実施出来ます。今年度から申請時期に期限が設けられています。募集時期に注意して申請しましょう。

・業務改善助成金HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

2.キャリアアップ助成金:非正規雇用労働者の処遇改善に

 非正規雇用労働者の賃金を引き上げた場合に支給される「キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)」も令和7年度に大幅な見直しが加えられました。

 賃上げ率に応じた区分(3~6%以上)を新たに設定し、たとえば時給を6%以上増額した場合、1人あたり最大7万円(中小企業)まで助成されます。キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)は、特定の職種や事業所に所属してる人や最低賃金以下の人に区切った賃上げや対象者を雇用保険加入者のみに限定することも構わないとされています。

 さらに、新たに昇給制度を設けた場合には、助成額の加算措置も設けられており、非正規雇用の底上げを制度面から強力に後押ししています。

 また、「社会保険適用時処遇改善コース」では、週20時間以上勤務する短時間労働者が社会保険に加入し、かつ15%以上の賃金加算や労働時間延長(3時間以上+5%以上賃上げなど)を行った場合、1人あたり最大50万円(最長2年で支給)を受給できます。これは、令和6年10月からの社会保険適用拡大に伴う“年収の壁対策”として創設されました。

 なお、現在創設が検討されている令和7年7月から始まる「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、いわゆる「130万円の壁」による就業調整(働き控え)を解消し、有期契約労働者等が年収を気にせず働くことができる環境を整えることを目的として創設されるものです。この制度は、既存のキャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の拡充施策として位置づけられており、労働時間の延長や賃金の増加によって労働者の収入を向上させる取り組みを支援します。

 対象となるのは、社会保険の被保険者ではない有期契約労働者等(勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員等を除きます)であり、1年目には所定労働時間を2時間以上延長し、賃金を15%以上増額するなどの要件を満たすことで、小規模企業では1人あたり50万円、中小企業では40万円、大企業では30万円の助成を受けることができます。さらに、2年目には追加的な取組として、労働時間をさらに2時間以上延長するか、基本給を5%以上追加で増額する、あるいは昇給・賞与・退職金制度の導入等を行った場合、小規模企業で25万円、中小企業で20万円、大企業で15万円の加算助成が受けられます。本コースは、申請人数に上限がなく、当分の間の暫定措置として適用される予定です。また、令和7年7月1日から令和8年3月31日までの期間については、既存の「社会保険適用時処遇改善コース」から本コースへの切り替えも可能となっています。この制度により、社会保険の適用拡大とともに非正規雇用労働者の処遇改善が図られ、長期的な職場定着やキャリアアップの促進が期待されます。

 キャリアアップ助成金では全てのコースで原則、労働局へのキャリアアップ計画書の事前提出が必要とされています。忘れずに届出をしましょう。

厚労省資料より

・キャリアアップ助成金HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

3.人材確保等支援助成金:雇用管理改善と賃上げを一体で

 「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」は、賃金規定制度や人事評価制度の導入、あるいは作業負担軽減のための機器導入といった雇用管理改善を行い、かつ離職率の改善や5%以上の賃上げを行った場合に支給されます。

 導入制度や設備に応じて助成額が異なり、複数制度の導入で最大100万円、機器導入では最大187.5万円、さらに賃上げ加算で総額287.5万円の助成が可能です。

 令和7年度は、従来の「人事評価改善等助成コース」を統合し、使い勝手の良い制度となっています。

・人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292_00005.html

4.働き方改革推進支援助成金:労働時間削減に伴う賃上げにも対応

 この助成金は、労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進に取り組む中小企業が、コンサルティングや設備投資を通じて改善の成果を出した場合に支給されるものです。

 特徴的なのは、36協定の上限見直しや勤務間インターバル制度の導入、さらには「賃上げ加算」が設けられており、たとえば5%以上の賃上げを達成した場合、助成額が大きく増額されます。

 業種別に最大550万円まで支給される例もあります。

5.人材開発支援助成金:訓練後の賃上げに連動

 「人材開発支援助成金」は、職務関連の知識や技能を習得させるために実施した職業訓練に対して支給される制度です。

 令和7年度は、訓練終了後に賃上げを実施した場合の助成額が引き上げられ、たとえば5%以上の賃上げを行った場合、訓練経費の加算措置(例:7万円)があります。

 この助成金は、OFF-JTだけでなくOJTも含めた柔軟な制度設計となっており、人材育成と賃金向上を一体で実現することが可能です。

・人材開発支援助成金HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

6.雇入れ時の賃上げ支援:再就職・中途採用時の加算制度

 離職を余儀なくされた労働者や就職困難者を無期雇用として雇い入れた場合、かつ賃金を5%以上引き上げた場合には、「早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース等)」が活用できます。

 中途採用率の向上や45歳以上の中途採用者への加算も用意されており、幅広い年代層に対応した支援制度です。

 また、「特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)」では、デジタル・グリーン分野への雇入れとともに3年以内に5%以上の賃上げを行うことで助成が1.5倍に増額される仕組みも設けられています。

おわりに:助成金を活用した「攻めの賃上げ」へ

 令和7年度の賃上げ支援策は、「業務改善」「非正規雇用の処遇改善」「雇用管理制度の整備」「働き方改革」「人材育成」「再就職支援」など、あらゆる局面に助成金が配置されているのが特徴です。

 いずれの制度も、事前の申請・計画書の提出が必要となるため、適切なタイミングでの準備が求められます。

 この支援策を「守り」ではなく「攻め」の経営に活かすことで、人材確保と企業成長の好循環を生み出すことが可能です。

 賃上げに悩む事業主の方は、まずは最寄りの労働局やハローワーク、働き方改革推進支援センターに相談してみることをおすすめします。


筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)

大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント

【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp

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