【新型コロナウイルスの企業対応・労務管理】第3節 従業員への休業発令

2020.02.11 【新型コロナウイルスの企業対応・労務管理】
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 以下の記事は、2009年10月に弊社より刊行された「新型インフルエンザ対応マニュアル」(絶版)をそのまま掲載しております。
 新型インフルエンザを対象とした内容となっており、古い部分もございますが、新型コロナウィルスが流行する中、企業の労務管理の対応方法としてご参照いただければと存じます。
 ・第1節 行政上の措置の種類
 ・第2節 企業の判断に基づく措置
 ・第4節 休業時の賃金支払義務

 新型コロナウイルスに関する最新情報は、厚生労働省のWebサイトをご参照ください。
 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)〔厚労省Webサイト〕

1 休業発令の検討

 新型インフルエンザの感染を防止するためには、罹患した従業員本人のほか、患者と濃厚接触した従業員、そのおそれのある従業員も対象として、休業(自宅待機)等の対策を検討する必要があります。まん延時には、通勤も含め、従業員の大多数が外出の自粛を要請される事態も想定されます。

 法律に基づき対処すべき場合もあれば、企業の自主的判断が求められる場合もあります。個別の事情・状況に応じ、休業に伴うコストと事業者が負うべき法的・社会的責任の両面を考慮しつつ、取るべき手段を選択する必要があります。

2 従業員自身が罹患

 従業員が新型インフルエンザに罹患した(そのおそれのある)場合、

① 自宅で療養する(休業を選択する)
② 自ら病院に行く
③ 発熱等をおして出勤する

というパターンが考えられます。

 ①のケースでは、従業員は年休または病気欠勤を申請します。

 ②のケースでは、医師が最寄の保健所長を経由して都道府県知事に届出し(感染症法第12条)、都道府県知事が一定の措置を決定する場合、医師のアドバイスに従って自ら休業を選択する場合等が考えられます。結果的には、①と同様、年休・病気欠勤処理されます。

 ③のケースでは、会社としては病院(発熱センター)等への相談を勧め、本人に年休・病気欠勤の申請を検討してもらうのがベターです。

 しかし、②のケースも含め、行政上の措置が採られず、本人が出勤を希望するケースもあり得ます。

 事業主としては、感染防止の観点から就業を制限するか否か検討が必要になります。

 安衛法では、病者の就業制限という条文(第68条)を設け、その対象として「病毒伝ぱの恐れのある伝染性の疾病にかかった者」が挙げられています(安衛則第61条)。

 しかし、「伝染病予防法(現行=感染症法)の対象になる伝染病者については、同法によって予防の措置が採られるから本条の対象とならない」(昭和24年2月10日基発第158号)という扱いとなっています。新型インフルエンザは感染症法で定める感染症に含まれるので(7ページ)、安衛法の規定は適用されません。

 事業主は、安衛法に基づき就業を禁じることはできず、自主的な判断に基づき自宅待機等の必要性を判断することになります。

3 患者と「濃厚接触」の場合

 同僚や家族等が新型インフルエンザに罹患し、その患者と濃厚接触した従業員については、新型インフルエンザの症状がみられなくても、感染の疑いがあります。しかし、発熱等がない以上、自主的な休業申請を選択する従業員は少数に限られるでしょう。

 感染症法では、「都道府県知事は、罹患の疑いのある者に対し、外出の自粛その他の協力を求めることができる」と規定しています(9ページ)。しかし、基本的対処方針に関するQ&Aでは、他の従業員の感染が確認されたケースで、「事業者は保健所と相談し、濃厚接触者と判断された者については、外出自粛など感染防止行動の重要性の説明を受け、これに協力していただく必要がある」と述べるにとどまっています。

 行政上の措置として具体的な要請がなされない場合、事業者は自主的な判断に基づき自宅待機等の対策を検討する必要があります。

同居家族に感染が確認された場合の、従業員の自宅待機

4 病気まん延時の対応

(1)一般従業員に対する休職措置

 新型インフルエンザがまん延し、感染リスクが高まった場合、罹患者・濃厚接触者以外の従業員について就業を制限せざるを得ない事態も想定されます。

 強毒性の新型インフルエンザが発生した場合には、行政による事業の自粛要請も否定できませんが、現時点では、従業員を自宅待機させるか否かは事業者の自主的な判断にゆだねられています。

 ただし、基本的対処指針およびQ&Aでも、保育施設が臨時休業になった場合等には、事業者に対し「休暇取得や短時間・在宅勤務を勧める」等の配慮を促しています。

(2)一般従業員に対する就労要請

 (1)とは逆に、大多数の従業員を休業させる一方で、一部の従業員に出勤を命じるケースも起こり得ます。

 従業員が感染危険を懸念する場合も、事業者は海外・国内での就労を要請せざるを得ない場合もあります。

 海外勤務については、「海外派遣企業での新型インフルエンザ対策ガイドライン」(労働者健康福祉機構)を参考とし、必要に応じて措置を講じるべきとされています。

 海外出張を回避できれば、それに超したことはありません。

 一般論としては、業務上の緊要性がある場合、十分な安全対策を確保できれば、出張等を命じることもできます。現地で、どれだけ効果的な新型インフルエンザ対策が講じられているか、確認が必要です。政府発表の情報等に留意しつつ、対応を検討すべきです。

 日本国内で出張を命じたり、他の従業員が休業している中、特定従業員に出勤を命じたりする場合も、基本的な考え方は同様です。感染症法やガイドラインに基づき、事業者に対しどのような措置が要請されているか等も含め国内の情報収集は海外に比べ、容易なはずです。

 仮に病気に罹患した場合、「安全配慮義務を尽くさなかった」として事業者が責任を追及されるおそれもあります。

 安全配慮義務は、現在、労働契約法に規定されています。

出張命令違反に対する処罰

 日本電信電話事件(最高裁昭和43年12月24日判決)は、日韓両国に緊張状態が生じている状況下で、朝鮮海峡への出向命令が出された事案です。労働組合は生命、身体の危険を理由に命令を拒否し、会社は幹部3人を解雇しました。しかし、最高裁は、十分な対策が採られていない(取ることが不可能な)状況下では、解雇処分は無効と判示しました。

労働契約法第5条

 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

 安全配慮義務は、「結果債務ではなく、安全と健康そのものを請け負う債務とまではいえない」(菅野和夫「労働法」)というのが通説です。

 安全配慮義務違反の有無は、現実に病気にかかったか否かとは関係なく、リスクを適切に評価し、回避努力を尽くしたか否かによって、判断されます。

 会社が基本的対処指針・ガイドライン等に依拠しつつ、必要十分な安全衛生対策を採っていれば、原則的には安全配慮義務違反には当たらないといえます。

 会社が業務命令で出勤を促し、結果として新型インフルエンザに罹患したとします。業務に起因する疾病であると認定されれば、労災保険の保護対象になり得ます。

 ただし、全社会的にウイルスがまん延している状況下では、「業務上、罹患した」という証明は難しいケースがありそうです。

(3)私的な外出・海外旅行等の自粛

 基本的対処指針では、「外出については、自粛要請を行わない」「集会、スポーツ大会等については、一律に自粛要請は行わない」というスタンスを採っています。

 従業員の私的な海外旅行等については、事業者が、現地の最新の情報等を提供し、自粛を求めるのは差し支えありませんが、現時点では、一律の制限は難しいでしょう。具体的な危険性が証明される状況に至った場合、一般論としては、就業規則等に根拠を設けたうえで、一定の制限を課すことも考えられます。

第4節に続く
 第1節第2節はこちら

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