早期対処で個別紛争解決を/馬場社会保険労務士事務所 馬場 三紀子
事業所の労務管理に日々携わり、司法、行政そして民間の労働紛争解決機関で現在、調停やあっせんを行う私は、事業主が通常の労務管理を適切に行っていれば防止できた、または早期に対処していれば事業所内で解決できたであろう労使間の個別労働紛争に遭遇するときが数多くある。労働条件通知書の不備、就業規則の不備や非周知、労使間のコミュニケーション不足、雇止めの手続き不備など事前に整備しておけば紛争の防止は可能だった。
いったん紛争が生じると、当事者は解決までに多大な時間と労力を費やし、しばしば事業主に金銭の負担が生じる。健全な労務管理を行っていれば、労働者のモチベーションを上げ、そのパフォーマンスを最大限に引き出し、生産性の向上による大きな利益を得ることが可能だったに違いない。しかし、経営者である事業主にとって人件費は大きなコスト割合を占めるため、残業代の不払いや解雇の適法性を争う事件のほかに、非正規雇用労働者の処遇をめぐる紛争も起きているのが現状である。また、労働者がいじめや嫌がらせにより心身の健康を損ない、事業主の安全配慮義務違反が問われる事件や短期に成果を上げようとしてパワハラが行われた結果、組織としても貴重な労働力を失い、多大な損害を被る事件も少なくない。
一方、労働者と使用者の関係を規律する法律は労働基準法、労働契約法など多岐にわたり、法改正事項や厚生労働省が発する通達、判例や下級審の裁判例まで含めると多様な利益調整を必要とするためにかなり複雑で、独力で理解することは容易ではない。解決の手法も非定型化するなか、紛争を事前に予防することの重要性を熟知し、早期解決に向けた法的アドバイスを行うことができる社会保険労務士の役割は大きいと考える。加えて、社会保険労務士会が行う学校での出前授業も紛争のリスク回避のために将来、その効果が期待できよう。
紛争は、一人の労働者について限定的に発生したものであっても、その解決は組織全体に影響を及ぼすことがある。今年6月に発刊した「非正規社員をめぐるトラブル相談ハンドブック」(新日本法規出版)を紛争の予防および解決に少しでも役立てていただければ幸いである。
馬場社会保険労務士事務所 馬場 三紀子【愛知】
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