【助成金の解説】キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)/岡 佳伸

2025.07.27 【助成金の解説】
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 2025年7月(令和7年7月)から、キャリアアップ助成金に「短時間労働者労働時間延長支援コース」が新設されました。このコースは「年収の壁」を越えて働き続けたいパートタイマー・アルバイトなど短時間労働者の収入増を促進し、事業主には社会保険適用と人手不足対策を同時に進める機会を提供するものです。

新コース創設の背景

 社会保険加入により「年収の壁」を越えた際に手取りが減るという問題(特に130万円の壁)が、短時間労働者の働き控えを引き起こしてきました。政府は2025年度から、従来の「社会保険適用時処遇改善コース」の労働時間延長メニューを拡充・改編し、より強力に「壁」を越える取組を支援するために本コースが創設されました。

助成金の対象となる取り組み

 労働者を社会保険に新たに加入させ、次の取り組みを行った場合に助成対象となります。
・週所定労働時間の延長
・賃金の増額(昇給・賞与・退職金制度の導入含む)

1年目の要件と助成額

厚労省リーフレットより

2年目の要件と助成額

 1年目に続き、2年目も以下いずれかを行うことで追加助成が受けられます。
・労働時間をさらに2時間以上延長
・基本給を5%以上増額
・昇給、賞与または退職金制度を新たに適用

厚労省リーフレットより

 この2年目の取組により、最大で1人当たり75万円の助成が可能になります。
※小規模企業とは、常時雇用する労働者の数が30人以下である事業主を指します。

1年目・2年目の取組と支給対象期の考え方

・1年目の取組⇒社会保険適用時前後6か月間を1年目の取り組みといいます。
・2年目の取組⇒社会保険適用後の1年間を2年目の取り組みといいます。
・第1期支給対象期⇒社会保険適用後の6か月間のことをいいます。
・第2期支給対象期⇒第1期支給対象期後の7か月後から6か月間のことをいいます。

厚労省リーフレットより

申請の流れ

1.キャリアアップ計画書の作成・提出:社会保険適用日の前日までに、管轄労働局へキャリアアップ計画書を提出。ただし、既に「社会保険適用時処遇改善コース」の計画届を出している場合には計画届や変更届の提出は不要になります。
2.6か月後の取り組み:計画通り労働時間延長や賃金増額を実施。(この取組を1年目の取り組みといいます)
3.支給申請:取り組みを6か月継続後(第1期支給対象期)、2か月以内に支給申請を行います。
4.2年目の取り組みを行う場合は、社会保険適用後の1年間(この期間を2年目の取り組みといいいます)の間に労働時間延長、基本給の5%以上の増額又は昇給又は賞与、退職金制度の適用を行います。
5.2年目の取り組みの支給申請:社会保険適用後の7か月後から6か月間取り組みを継続後(第2期支給対象期)、2か月以内に支給申請を行います。

注意点

① 申請に際しては、賃金台帳や雇用契約書などを社会保険適用前の6カ月間及び適用後の6か月分整備し、労働時間、賃金の変化、社会保険の適用を客観的に示せるようにしておく必要があります。
② 取り組みを複数年に分けて計画することもできますが、社会保険適用後の労働時間延長は別途条件があるため、計画段階で管轄労働局に相談すると良いでしょう。
③ キャリアアップ助成金の賃金規定改定コースとは併給調整がかかります。賞与・退職金制度導入コースについては、短時間労働者労働時間延長支援コース対象者及びその他の有期雇用労働者等に対して制度を同時に適用する場合などで、その他要件を満たす場合は、併給可能な場合があります。
④ 社会保険適用前の6か月間に既に労働時間が社会保険適用要件を満たしている場合(単なる社会保険適用漏れ)は対象になりません。
⑤ 事業主の要件として解雇要件はありません。喪失原因3(解雇等)で退職した人がいても支給対象になります。
⑥ 社会保険適用前の要件について、学生を除くとの要件はありません。例えば学生アルバイトで6か月間、労働時間が短く社会保険の適用されていない人が、中退した後労働時間を延ばして社会保険適用にされた時にも対象になります。
⑦ 支給申請時までに「有期労働者等」である必要があります。正社員転換された方は対象外です。キャリアアップ助成金正社員化コースの活用を考えることとなります。
⑧ 現行の社会保険適用時処遇改善コースについては、令和7年度(令和8年3月31日)で終了します。社会保険適用時処遇改善コースは令和7年度末までに対象労働者に社会保険の適用を行った場合を支援対象としており、令和8年度以降に社会保険の適用を行った場合は対象となりません。令和8年度以降は、短時間労働者労働時間延長支援コースの要件にあった取組が必要になります。

おすすめポイント

 申請書類も簡素化され、解雇要件も無い短時間労働者労働時間延長支援コースはキャリアアップ助成金の中でも使いやすいと言えます。
 短時間労働者の収入を増加させ、社会保険加入を促すことで人材確保と労働者の安定した生活を両立できる本コース。事業主として積極的に活用し、「年収の壁」を越えて安心して働ける職場づくりを目指しましょう。


筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)

大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント

【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp

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