【助成金の解説】両立支援等助成金(不妊治療と女性の健康課題両立支援コース)/岡 佳伸
令和7年度新設!女性の人生にかかわる課題の手助けをする両立支援等助成金
令和7年4月より、厚生労働省は「両立支援等助成金」に新たな支給メニューとして「不妊治療と女性の健康課題両立支援コース」(以下「本コース」)を創設しました。これは従来の「不妊治療両立支援コース」を拡充し、月経や更年期障害など、女性特有の健康課題への対応に支援を行うことによって、企業にとっては、女性社員の就業継続支援・職場定着・健康配慮といった観点から、人材戦略に組み込む意義のある制度といえます。
本制度では、主に不妊治療、月経困難症やPMS、更年期障害といった女性特有の健康課題に対し、企業が就業配慮や支援制度を導入・整備し、実際にその制度が従業員に利用された実績があることを条件として、助成金が支給されます。対象となるのは中小企業で、支給額は1テーマあたり30万円(1回限り)と定められており、不妊治療、月経、更年期の3分野それぞれについて最大90万円の助成が見込まれます。
助成の要件としてはまず、不妊治療または女性の健康課題への相談に対応する者として「両立支援担当者」を社内で選任することが求められます。この担当者は、従業員からの相談対応や、制度の周知・調整、申請手続きの支援を担う重要な存在です。次に、助成対象となる支援制度としては、特定目的の休暇(無給・有給どちらでも可、ただし、月経困難症に対応するために、労働基準法で定められた女性の生理休暇を活用する場合は場合、有給にする必要があります。また、労働基準法第39条の年次有給休暇とは別に制整備する必要があります)、所定外労働の制限、時差出勤、短時間勤務、フレックスタイム制、在宅勤務(テレワーク)などが挙げられ、これらの制度が整備され、かつ従業員が合計で5日(回)以上利用した場合に助成金の対象となります。
※特定目的の休暇は労働基準法第39条の年次有給休暇とは別に整備する必要があります。
※対象労働者1人が各制度を5日(回)以上利用することが必要となります。
※制度は時間単位の利用も可能ですが、5日(回)に分けて利用する必要があります。同日に同一の制度を利用した場合(例:休暇制度を始業時に1時間、就業時に1時間ずつ利用等)は1回とカウントされますが。同日に別々の制度を利用した場合(例:在宅勤務等と短時間勤務制度を利用等)はそれぞれ1回とカウント(上記例の場合は計2回とカウント)されます。
※利用期間は、当該制度利用開始日から1年以内である必要があります。
支援内容 | 支給額 |
不妊治療のための制度導入・利用 | 30万円 |
月経に起因する症状への制度導入・利用 | 30万円 |
更年期に伴う不調への制度導入・利用 | 30万円 |
今回、参考として作成したモデル規程案では、各課題に応じた制度を整備したとして作成しています。不妊治療については、月2日まで取得可能な不妊治療休暇(無給・有給)、時差出勤や短時間勤務、テレワークの活用、さらには業務内容や勤務場所の一時的見直しにまで踏み込んでおり、きめ細かい内容としました。月経に関しては、有給の生理休暇(月2日)や、PMS・PMDD等への柔軟な勤務対応、フレックス制やテレワークの導入が盛り込まれており、通常の年次有給休暇とは別に、女性が安心して体調に応じた働き方を選べる内容になっています。更年期についても、月1日の支援休暇や柔軟な勤務制度、職務・配置の一時的見直しなどが網羅されており、現場での導入がしやすい構成となっています。ただし、あくまでも規程案なので、自社に応じた日数や休暇を無給・有給にするかを含めて検討して下さい。
制度の運用において留意すべき点としては、まず既存の年次有給休暇や労基法上の生理休暇とは別に新たな制度として就業規則や規程に明文化する必要があることです。助成金の支給対象外とならないためには、従来制度の流用ではなく、明確な区別が求められます。また、支援制度が実際に利用されたことを証明するための記録(申請書、勤怠記録等)も整備・保管しておく必要があります。実務的な対応としては申出書等を準備することになります。さらに、不妊治療など個人のプライバシーに関わる情報を取り扱う際には、情報管理体制を整え、必要に応じて診断書を求める運用とすることで、制度の信頼性を確保することが大切です。他の制度でも本人の申し出に基づく制度利用とし、状況によれば診断書の提出は不要とすることが重要です。
この制度を活用することで、女性従業員の離職防止や定着率向上、企業ブランドの向上にもつながります。近年、企業に求められる「人的資本経営」の中でも、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスの充実は極めて重要な視点となっており、本制度はそうした社会的要請にも応える施策といえるでしょう。昨今注目されている「人的資本の情報開示」においても、女性の健康支援に関する取組は、エンゲージメントや定着率向上の指標として重視されています。単に助成金を得ることが目的ではなく、制度を通じて男女とも「働きやすい職場」のモデルケースを目指すことが、持続可能な企業経営への第一歩となります。
令和7年度の法改正に伴い、育児・介護休業法に関する制度改定も進む中で、本制度は時代の要請を先取りしたものとして、多くの企業にとって導入の意義がある支援策です。就業規則の整備、社内体制の構築を通じて、女性の健康に配慮した職場づくりを実現し、その先の企業の成長へとつなげていくことが期待されます。
不妊治療・月経・更年期に関する健康支援制度規程
第1条(目的)
この規程は、従業員が不妊治療、月経に伴う体調不良、更年期障害などの女性特有の健康課題を抱える中でも、就業を継続しやすい職場環境を整備することを目的とし、会社として必要な支援措置を講じるものである。支援措置として講じる休暇等は労働基準法上の年次有給休暇とは別に与える。
第2条(対象者)
以下のいずれかに該当する従業員を対象とする。
1.医師により不妊治療が必要と診断された者(女性、男性ともに取得可能)
2.月経困難症、PMS、PMDD、子宮内膜症等により就労に支障があると認められる者
3.更年期障害による心身の不調が継続的に見られ、就業に配慮を要する者(男性の更年期障害も含む)
第3条(支援制度の内容)
不妊治療に関する支援制度
(1)勤務時間の柔軟化(申出に基づくものとして、取扱いについては別途通知書を交付する)
① 時差出勤:始業・終業時間を前後1〜2時間の範囲で変更可能とする。
② 時短勤務:1日あたりの所定労働時間を1〜2時間短縮可能とし、勤務時間に応じて給与を支給する。
③ フレックスタイム制:コアタイム(10:00〜15:00)を除き、自由に出退勤可能とする。
④ テレワーク:自宅等での勤務を可能とし、通院・体調不良等に対応する。
(2)不妊治療休暇(無給・有給)
・医療機関での通院、検査、処置等を目的とした休暇として、月2日を上限に無給(有給)休暇を取得できる。(有給休暇は通常の所定労働をしたときの給与を支払う)
・原則として事前申請を必要とするが、緊急時には事後申請も可とする。
(3)職務・配置の配慮
・業務負担軽減が必要と認められる場合、職務内容または勤務場所を一時的に見直すことができる。
月経に関する支援制度
(1)生理休暇(月経困難症)(有給)
・月経により強い痛みや体調不良がある場合、月2日を上限に有給の生理休暇を取得できる。有給の休暇は通常の所定労働をしたときの給与を支払う。
・原則として診断書は不要だが、長期継続取得の場合は医師の意見を求めることがある。
(2)勤務時間の柔軟化(申出に基づくものとして、取扱いについては別途通知書を交付する)
・月経困難症、PMS、PMDD、子宮内膜症等による体調不良に対応し、以下の勤務形態を柔軟に適用する。
① 時差出勤:始業・終業時間を前後1〜2時間の範囲で変更可能とする。
② 時短勤務日あたりの所定労働時間を1〜2時間短縮可能とし、勤務時間に応じて給与を支給する。
③ フレックスタイム制:コアタイム(10:00〜15:00)を除き、自由に出退勤可能とする。
④ テレワーク:自宅等での勤務を可能とし、通院・体調不良等に対応する。不妊治療支援と同様に、時差出勤、時短勤務、フレックスタイム制、テレワークの活用が可能とする。
更年期に関する支援制度
(1)勤務時間の柔軟化申出に基づくものとして、取扱いについては別途通知書を交付する)
・更年期障害による体調不良に対応し、以下の勤務形態を柔軟に適用する。
① 時差出勤:始業・終業時間を前後1〜2時間の範囲で変更可能とする。
② 時短勤務日あたりの所定労働時間を1〜2時間短縮可能とし、勤務時間に応じて給与を支給する。
③ フレックスタイム制:コアタイム(10:00〜15:00)を除き、自由に出退勤可能とする。
④ テレワーク:自宅等での勤務を可能とし、通院・体調不良等に対応する。
(2)更年期支援休暇(無給・有給)
・更年期による体調不良により就業が困難な場合、月1日を上限として無給(有給)休暇を付与する。
(3)職務・配置の配慮
・業務内容や配置の一時的な見直しを本人の申出に基づき検討する。
第4条(両立支援担当者の選任)
1.本規程の適切な運用及び対象者からの申出対応を行うため、両立支援担当者を1名以上選任する。
2.両立支援担当者は、対象者からの申出受付、助言、制度案内および社内調整を行うとともに、必要に応じて人事担当部門・上司と連携する。
第5条(申請手続)
1.各制度の利用を希望する従業員は、所定の申出書を両立支援担当者または人事部へ提出する。
2.必要に応じて、医師の診断書または意見書の提出を求めることがある。
3.提出された情報は制度の運用に限って使用し、厳正に管理する。
第6条(個人情報の保護)
制度利用に関連して取得した情報は、本人の同意がある場合を除き、目的外に使用せず、秘密を保持する。
第7条(その他)
この規程に定めのない事項については、別途定める就業規則または人事関連規程に準ずる。
筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)
大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント
【webサイトはこちら】
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