【助成金の解説】令和7年度大幅改正!キャリアアップ助成金正社員化コース/岡 佳伸
「キャリアアップ助成金」は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。「正社員化コース」は正社員以外で雇用されている従業員を正社員に転換(又は採用)することによって、不安定雇用を解消することを目的しています。令和7年度で大幅改正されました。
令和7年度キャリアアップ助成金 令和7年度改正ポイント
(令和7年4月1日以降の取組(正社員化や賃金規定改定等の取組)について適用)
1.正社員化コースの支給対象・助成額の見直し
従来は雇用形態(有期→正規、無期→正規)によって助成額が固定されていたが、令和7年度からは「重点支援対象者」か否かで助成額が異なるよう変更。
「重点支援対象者」とは以下のいずれか:
a: 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
b: 雇入れから3年未満かつ以下の両方に該当
① 過去5年間の正社員歴が1年以下
② 過去1年間に正社員として雇用されていない
c: 派遣労働者、母子家庭の母・父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定訓練(人材材育成支援コース、事業展開等リスキリング支援コース、人への投資促進コース等)修了者
雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者は無期雇用労働者とみなされます。
重点対象者以外は正社員転換後6か月単位の支給申請の1期のみ、重点対象者は2期にとなります。
重点対象者である過去5年間に正規雇用労働者であった期間が1年以下であること、過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていないことの確認は、所定の様式(様式第3号 1-5対象者確認票)により行いますので、同様式を、対象労働者が記入したうえで、申請書類に添付する必要があります。内容は雇用保険の加入データ等で確認されます。
2.新規学卒者の支給対象除外(明確化)
「新規学卒者で、雇入れから1年未満の者」は支給対象外と明記されました。
【新規学卒者の定義】
・学校等(高卒・専門・短大・大学・大学院など)を卒業・修了後、初めて正社員以外で雇用されます者を新たに卒業しようとする者及び卒業年度の3月31日までに内定を得た者をいいます。令和7年3月15日に卒業した者については、同月31日までに内定を得ていれば、新規学卒者に該当することととなります。
・新規学卒者は企業に就職した実績がなく、雇用保険加入もしくは労働契約の実績がない場合が該当。令和7年4月1日以降に内定を得た者は新規学卒者とはなりません。
【支給対象外となる条件】
・雇入れ日から起算して1年未満の新規学卒者は、キャリアアップ助成金の支給対象となりません。
・この取扱いは、新規学卒者を、本来正規雇用労働者として雇い入れることができるにもかかわらず、有期雇用労働者として雇い入れ、6か月経過後に正社員転換を実施し、助成金を支給申請するといった、本助成金の趣旨と離れた活用例があるとの指摘があることを踏まえたものとされています。
・新規学卒者が、申請事業主に雇い入れられた日から起算して1年以上経過していれば、支給対象になり得ます。支給要件を満たしていることを確認するために、様式第3号1-2⑱にチェックを入れた上で、対象労働者の卒業年月日や申請事業主に雇い入れられる以前に職歴(昼間学生期間を除く)がないことが分かる応募書類や本人署名入りの申立書等の提出が必要となります。
3.キャリアアップ計画書の認定を届出制に変更
・これまで:労働局長の「認定」が必要
・今後:届け出のみでOK(提出期限:各コースの取り組み開始日前日まで)となり実質変更ありません。
令和4年度改正点
今までもキャリアアップ助成金正社員化コースは多くの事業主が活用されてきましたが、良質な正社員制度の導入を図るために令和4年度に大幅改正されました。改正点を詳細解説します。
① 令和4年4月1日転換から有期→無期転換コースが廃止されました。これにより正社員(正規雇用労働者)に転換しない限り支給されないことになりました。正社員転換後派遣社員として就労している場合は無期転換と扱われますので、派遣会社では活用が困難になりました。
② 令和4年10月1日以降に正社員転換等を行う場合は、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限ることとされました。よって、賞与も退職金も支給していない会社は対象外にとなります。
③ 令和4年10月1日以降に転換等する場合は、転換後に試用期間が設けられている場合、正社員待遇の適用の有無に関わらず、正規雇用労働者に転換等したものとは見なされません。就業規則に「正社員採用後試用期間を3か月設ける」等の規定がある場合は無転換したものみなされ助成金の対象外になる可能性があります。
④ 令和4年10月1日以降、転換対象となる有期雇用労働者等については、賃金の額または計算方法が「正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者に変更にとなります。例えば契約社員と正規雇用労働者とで異なる賃金規定(基本給の多寡や昇給幅の違い、賞与、諸手当の違い)などが適用されます必要があります。また、異なる賃金差には通勤手当、家族手当の違いや固定残業代の有無や時間差は含まれません。実質的な差が無く形式的な差、例えば規定に「正社員には賞与を支給する、非正規社員に賞与を支給しない」としているのにも関わらず非正規社員にも賞与が支給されている場合は、待遇差と判断されない可能性があります。
⑤ 令和4年10月1日以降適用されます雇用区分の就業規則等において契約期間に係る規定がない場合は、転換前の雇用形態を無期雇用労働者としてとりあつかわれます。
受給のポイント
① 原則6か月以上勤務している有期契約社員等又は派遣社員(派遣先として受け入れている者)を正社員転換後に、6か月間雇用が定着した後に支給申請することができます。
② 転換の際には試験(面接試験又は筆記試験、両方の併用等)等で選考する必要があり、その転換に関する規程を就業規則等で定める必要があります。正社員登用に関する資料(面接試験表等)を保管している必要があります。あらかじめ、正社員で求人した者、正社員転換が予定されている者は対象外です。
③ 初回の支給申請は正社員転換後から6か月間に係る給与が支給されてから2か月以内に申請することにとなります。支給申請日までに退職している者は対象外ですが、本人の自己都合又は懲戒解雇等で退職している場合は支給申請できます。
④ 転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させている必要があります。昇給の場合は固定的な賃金(基本給又は就業規則等で規定されている諸手当)により増額しなければなりません。
⑤ 2期目の支給申請の際には正社員になってからの待遇が合理的な理由が無く引き下げている事業所は対象外にとなります。多様な正社員(短時間正社員等)に転換されていても受給できます。
⑥ 当該転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該転換を行った適用事業所において、雇用保険被保険者を解雇等事業主の都合(退職勧奨を含む)により離職させた事業主は対象になりません。
⑦ 有期雇用労働者等から正規雇用労働者に転換または直接雇用されます場合、当該転換日または直接雇用日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所または資本的・経済的・組織的関連性からみて密接な関係の事業主において正規雇用労働者として雇用されたことがある者、請負若しくは委任の関係にあった者または取締役等役員であったものは対象外となります。契約社員雇用する前にフリーランス(請負等)で働いていた人を対象にすることは出来ません。
⑧ 特定求職者雇用開発助成金等他の常用雇用を目的とする助成金の対象になった者については、キャリアアップ助成金の対象とすることはできますが、支給申請区分として無期→正規の区分となります。
⑨ 正社員化後に社会保険加入の条件を満たす場合は転換後、社会保険加入していなければ対象者には出来ません
⑩ 全てのキャリアアップ助成金に共通しますが、事前に「キャリアアップ計画」を作成して労働局に届出る必要があります。キャリアアップ計画書の内容、例えばキャリアアップ管理者や労働者代表が変更になった場合は変更の届出をしなければなりません。
お勧めポイント
当初の有期契約の期間で見極めを行い、正社員登用を図るという点では、慎重な採用とその後の定着という流れを作ることができます。ただし、非常に多く申請されている助成金ですが、令和4年度及び令和7年度の改正により更に条件を満たすのが難しくなったと言えます。多くの会社で就業規則等の見直しが必要にとなります。正社員の昇給制度、賞与、退職金制度の中身も審査されます。非正規社員との待遇差も実質的な差があるかが問われます。
相談先
各労働局・ハローワーク
就業規則参考条文
正社員登用規定
第00条(正社員、無期契約雇用社員登用) 勤続6か月以上の非正規社員の者(有期契約雇用社員及び無期契約雇用社員等)又は有期実習型訓練修了者で本人の希望する者、派遣社員等は、社員就業規則第00条の規定に基づき正規雇用、無期契約雇用に転換させる又は採用することがある。
2 転換時期は毎月1日又は随時とする。
3 代表又は取締役、管理職等の推薦がある者に対し、⾯接試験を実施し、合格した場合について転換することとする。
令和4年10月1日以降転換にかかる就業規則参考条文
(昇給規定)
(例)昇給は勤務成績その他が良好な労働者について、毎年〇月〇日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は行わないことがある。
(例)毎年1回、各等級の役割遂行度を評価し、人事評価基準に基づき基本給の増額を行う。
(賞与規定)
(例)賞与は原則として毎年6月と12月の給与支給日に在籍したものに支給する。支給額は人事評価および会社の業績に基づき個別に決定する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は支給時期を延期又は支給しないことがある。
(非正規社員と異なる区分を表す例)
(例)非正規社員には原則賞与を支給しない。
(例)正社員には役職手当を任用に応じて支給する。役職手当の額は店長5万円とする。非正規社員には役職手当支給しない。(非正規社員にも店長に任用した場合は、店長手当を支給するが3万円とする)
(契約社員の契約期間についての記載例)
(例)有期契約労働者の雇用期間は1回の契約期間につき3年以下とする。個々の労働者の雇用契約期間は労働条件通知書等で別途定める。
(試用期間の例)
(例)入社時から試用期間を3か月設ける。試用期間中に適性や能力に欠けるもの、出勤率が著しく低い者は正社員登用を行わない。非正規社員から正社員登用したものには試用期間の規定を適用しない。
筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)
大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント
【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp