【主張】「調査的監督」見合わせを

2018.10.25 【主張】
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 自民党の政務調査会厚生労働部会は、さきごろ労働分野における調査手法の見直し提言をまとめた。提言では、労働基準監督官が行う「調査的監督」のあり方を疑問視し、「統計としての品質」が問われると指摘した。強制力のある監督指導と一体的に実施した調査と任意の社会調査を比較することはできないし、そもそも限られた人員の監督官が違反事件処理を超えて重要な社会調査まで掛け持ちすべきではない。

 「調査的監督」は、監督官が定期監督などで事業場に立ち入った際に、目的に合わせて幅広く情報を収集する手法で、従来からよく実施されている。今年の通常国会で裁量労働制の対象業務拡大が審議された際、同手法による調査データに異常値が発覚したことから関連部分を全面削除せざるを得なかった。

 労働法令の専門知識を有した監督官の強力なマンパワーを利用できる上、実際の賃金台帳などを参考にできる「調査的監督」は、本来「信頼性が高い」とされていたが、裏切られた形である。事業場ごとの識別番号などのエラーチェックが行われていれば、ミスを防げた可能性があるとの見方もある。社会調査を専門としない監督官にとっては辛い結果といえよう。

 しかし、監督官に責任を負わせることはできない。監督官は合計3000人ほどに限られ、この人員規模で400万社を超える全国の事業場をカバーしている。結果として、年間の監督実施割合は3%強に過ぎず、最も力を入れるべき司法処分の年間件数も減少傾向が続き1000件を割ってしまった。

 社会調査に不慣れという事情もあるが、本来、違反事件処理に専念すべき監督官に多くを期待するのが間違いである。強制権限をバックとした調査結果にブレが生じる可能性もあろう。このため自民党の提言では、「労務記録を見ながら回答できる郵送やネットによる自記式の独立したアンケート調査として実施する方がよい」と述べている。

 信頼を損ねてしまった従来型の「調査的監督」は、態勢が整うまで実施を見合わせるのが賢明だろう。

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平成30年10月29日第3182号2面 掲載

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