【書方箋 この本、効キマス 書評家・大矢博子選集(2025年上半期)】『藍を継ぐ海』『蔦屋』『高宮麻綾の引継書』ほか
労働新聞で好評連載中の書評欄『書方箋――この本、効キマス』から、2025年の上半期に公開した大矢博子さんご執筆のコラムをまとめてご紹介します。
『藍を継ぐ海』 伊与原 新 著
今月15日に発表された第172回直木賞。受賞した伊与原新『藍を継ぐ海』は候補作のなかでも私のイチオシだったので実に嬉しい。著者の伊与原新は1972年生まれ。東京大学大学院で地球惑星科学を専攻し博士課程を修了。富山大学理学部で助教として勤務する傍ら小説の執筆を始め、2010年に横溝正史ミステリ大賞を受賞した『お台場アイランドベイビー』で作家デビューという異色の経歴を持つ。…

伊与原 新 著、新潮社 刊、税込1760円
『蔦屋』 谷津 矢車 著
出版界の片隅に身を置くものとして、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』を毎週興味深く観ている。江戸中期から後期にかけて活躍した版元で、本の企画・出版から販売まで取り仕切った蔦屋重三郎の物語だ。…

谷津 矢車 著、文春文庫 刊、税込880円
『高宮麻綾の引継書』 城戸川 りょう 著
鶴丸食品をトップに頂く、「食」にまつわる企業群としては国内でも大手の鶴丸グループ。その子会社である食品原料の専門商社TSフードサービスに入社して3年目の高宮麻綾は、グループ内での新規事業を提案するビジネスコンテストに絶対の自信を持ってエントリーした。…

城戸川 りょう 著、文藝春秋 刊、税込1760円
『ブレイクショットの軌跡』 逢坂 冬馬 著
以前この欄でも紹介したデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』で第二次世界大戦での独ソ戦を、続く『歌われなかった海賊へ』でナチス政権下のドイツを描いた逢坂冬馬。今ではない時代・ここではない場所をあえて描くことで、現代日本に暮らす読者に新たな視座を与えてくれた。…

逢坂 冬馬 著、早川書房 刊、税込2310円
『転職の魔王様3.0』 額賀 澪 著
GW明けに退職者急増というニュースがあった。しかも新卒者の割合が高いという。会社を辞めたい理由は人それぞれだろうが、新卒の場合は概ね似た理由なのではないだろうか。簡単に言って「思っていたのと違う」だ。このニュースを聞いたときに思い出したのが額賀澪『転職の魔王様』シリーズである。…

額賀 澪 著、PHP文芸文庫 刊、税込924円
『我、演ず』 赤神 諒 著
人生も仕事も連戦連勝、であればさぞかし気持ちが良いだろうが、そんなことはあり得ない。頑張っても負けることはあるし、戦う前から負けが見えていることも少なくない。時には、敢えて負ける方が賢いというケースもある。…

赤神 諒 著、朝日新聞出版 刊、税込2530円

書評家 大矢 博子 氏
選者:書評家 大矢 博子(おおや ひろこ)
88年、民間気象会社に入社。96年に退職後、書評家に。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)など。