【書方箋 この本、効キマス JIL-PT・濱口桂一郎選集(2025年上半期)】『デジタルの皇帝たち』『秘密解除 ロッキード事件』『ヒルビリー・エレジー』ほか
労働新聞で好評連載中の書評欄『書方箋――この本、効キマス』から、2025年の上半期に公開した濱口桂一郎さんご執筆のコラムをまとめてご紹介します。
『西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか』 エマニュエル・トッド 著
本欄でエマニュエル・トッドを取り上げるのは約2年ぶりだが、前回の本がトッド人類史の総括編であったのに対し、今回の本はロシア・ウクライナ戦争について世の常識と正反対の議論をぶちかまし、返す刀で米英をはじめとする西側諸国をめった斬りにするすさまじい内容である。

エマニュエル・トッド 著、大野 舞 訳、文藝春秋 刊、税込2860円
『墓標なき草原(上・下)』 楊 海英 著
日本の相撲界にはモンゴル人がたくさんいるが、そのなかには中国国籍の内モンゴル人もいる。蒼国来(現・荒汐親方)や大青山がそうだ。彼ら内モンゴル人が、中国の文化大革命時に死者5万とも10万とも言われる大虐殺(ジェノサイド)を被ったことをご存じだろうか。

楊 海英 著、岩波現代文庫 刊、税込1562円(上下巻とも)
『デジタルの皇帝たち』 ヴィリ・レートンヴィルタ 著
タイトルの「デジタルの皇帝たち」(原題は「クラウド・エンパイアズ」なので、正確には「クラウドの諸帝国」)とは、GAFAといわれるデジタル巨大企業だ。アマゾン、アップル、グーグル、ウーバーといったグローバルに展開するプラットフォーム企業によって、我われの生活は支配されている。

ヴィリ・レートンヴィルタ 著、濱浦 奈緒子 訳、みすず書房 刊、税込4400円
『秘密解除 ロッキード事件』 奥山 俊宏 著
ロッキード事件と言っても、多くの読者にとっては歴史上の事件だろう。筆者は当時高校生であったが、田中角栄元首相が逮捕されるに至る日々のテレビや新聞の報道は今なお記憶に残っている。田中が逮捕された頃、『中央公論』に田原総一朗の「アメリカの虎の尾を踏んだ田中角栄」というルポが載った。

奥山 俊宏 著、岩波現代文庫 刊、税込1650円
『ヒルビリー・エレジー』 J・D・ヴァンス 著
今年2月、ホワイトハウスに招かれたウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカのトランプ大統領と口論を繰り広げて合意が破談になったが、そのきっかけはヴァンス副大統領の「失礼だ」「感謝しないのか」という発言であった。トランプに輪をかけた暴れん坊っぷりを世界に示したヴァンス副大統領とはどういう人物なのか?

J・D・ヴァンス 著、関根 光宏、山田 文 訳、光文社刊、税込1320円
『NEXUS 情報の人類史』 ユヴァル・ノア・ハラリ 著
世界中がおかしい。とりわけアメリカがおかしい。おかしいトランプ大統領が世界を振り回している。日本もおかしい。とりわけ大統領型で選ばれる知事や市長がおかしい。これは一体何が起こっているのか? 著者は、その近い原因をAI(人工知能)に、遠い原因を人類が生み出した共同主観に求める。

ユヴァル・ノア・ハラリ 著、柴田 裕之 訳、河出書房新社 刊、税込2200円(上・下巻ともに)

JIL-PT 労働政策研究所長 濱口 桂一郎 氏
選者:JIL-PT 労働政策研究所長 濱口 桂一郎(はまぐち けいいちろう)
83年労働省入省。08年に労働政策研究・研修機構へ移り、17年から現職。